「誰かしら、その子」



少女――なまえを家に招き入れて1日が経った。

泊めた理由はなまえが部屋番号を頑なに口にしなかったため、送り返すこともできなかったから。
外に放り出そうかとも考えたが、またご近所さんにああ言う目で見られたり、なまえに泣かれたりしても困る…と言うか面倒なのでとりあえず家に置くことにしたのだ。

そしてなまえを家に上げた夜が明け、朝。
波江が出勤して来て開口一番にそう言った。



「捨てられてたんだよ」

「大変ね、拾ったの?」

「預かってるだけ。その内親元に送り返すよ。もしくは新羅の家にでも渡すか」

「あらそう」

「お姉さん、はじめまして」



渡した携帯でゲームをして遊んでいたなまえが波江の方へ駆け寄って行った。
それに素っ気無く返事を返した波江になまえは「なまえです。お姉さんは?」と小さく笑いながら言う。



「矢霧波江よ」

「波江さん、」

「何かしら」

「……。なんでもないです」



言ってから小走りでソファに戻り、座る。
ああ、そう言えば朝ご飯を作るのが面倒で、秘書が来たら作らせるからとか言ったな。
お腹が空いたのか。



「波江、適当に朝ご飯作ってくれるかな」

「何で私がアンタなんかにご飯を作らなきゃいけないのかしら」

「俺のは作らなくてもいいよ。なまえの分をよろしく」

「すっかり保護者気取りなのね」

「そう言うわけじゃないけど。飢え死にされても困るだろ?」



少し笑ってそう言えば波江は一言「最低ね」と返事をしてからキッチンへ向った。
まあ、たしかに非情ではあるかな。
でも実際そうだし。

そんなことを考えていればなまえがこちらを向いて不安げな顔をして「ごめんなさい」と言った。



「…別に謝ることじゃないだろ?人間生きてれば腹も減るしね」



本当だったら"飢え死にされても困る"なんて言った俺が謝るべきなんだろうけどねえ。
そんな意義も知らず、なまえは嬉しそうに、無邪気に笑う。
何が楽しいんだか。子供の感情はよく分からないな。



「できたわよ。フレンチトーストでよかったかしら」

「!!ありがとうございます」

「礼儀正しいわね、コイツと違って」



言って俺をチラリと見てくる我が秘書。
それにどう反応すればと言った表情で苦笑いを浮かべるなまえに、「律儀に答えないで適当に相槌を打って流せばいいんだよ」と言ってやると「"相槌"って何ですか」と返ってきた。

まあ、そうなるよねえ。
説明が面倒だったので波江に任せると波江はあからさまに大きく溜め息をついた。


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