自信が無い私を安心させる為ではない。
ただ単に、私を慌てさせて楽しんでいる為だ。
こ、この人はこんな時まで私をいじめて楽しんでいるのか……!
内心呆れてはいるが、沖田さんらしいなと思う自分がいる。
私は頬を膨らまして、僅な反抗をした。
口を尖らせ、つーんと意地を張るように。
……最も、彼にこんなのが通じたことなんて、一回もないんだが。
そしたら、やはり予想通りの反応が返ってくるのだ。
「あれ?名前ちゃん、頬が膨らんでいるけれど、どうしたの?」
彼は起き上がり、私の頬を人差し指でつつく。
……少しだけ長い沖田さんの爪が刺さって、地味に痛いんですけれど。
──て言うか、この人は絶対、私がなんで拗ねているのかわかっているよね。
だって笑ってるもん。
「……沖田さんは、意地悪です」
不平を呟くが、"へぇ?"と笑みを濃くするだけ。
更に文句を言ってやろうと口を開こうとした、次の瞬間。
目の前には、沖田さんの引き締まった胸板があった。
──思考停止──
直ぐに意識を取り戻して、抱きしめられているという事実に顔が火をつけたように熱くなる。
「お、おお沖田さん……!?」
動揺する私に対して、彼はやはりと言うか、落ち着いていた。
抱きしめる腕の力が、少しだけ強くなる。
「君は、いつも拗ねてしまうよね、僕が意地悪すると。………ごめんね」
……謝られちゃったよ。
意外だ、意外過ぎる。
沖田さんがちゃんと謝るなんて。
──ま、まさか熱が……!?
「………うん。
名前ちゃんは、少しというか──だいぶ誤解しているみたいだね」
私は、沖田さんの額と自分の額に手をつけていた。
検温です。
「名前ちゃんもひどいよね。僕に熱なんて、ないんだけどなぁ」
「ご、ごめんなさい……」
「まあ、そんなことはどうでもいいんだけどさ」
どうでもいいんかい。
そんな関西人ばりのツッコミが出かかったが、喉奥に引っ込めた。
否、言えなかった。
……沖田さんの顔が、いつになく真剣だったから。
「……僕の意地悪は、君を傷つけていると思う。
でも君は優しいから、どんなに意地悪をしても許してくれるんだろうね」
一瞬、彼の瞳が陰ったような気がして、心がザワリとざわめいた。
……沖田さんの眼には少しの不安と、それでも言わなくてはならないという一種の決意が見える。
「君は僕の側にいることで、とても深い傷を心に負うことになると思う」
その言葉に、【労咳】という単語を思い出した。
沖田さんは少し俯き悩む姿勢を見せて、再び視線を上げた。
その瞳には、覚悟を決めた時の力強さがある。
「それでも僕は、君に側にいてほしい。
僕には君が必要だから、君の存在が僕の心に必要だから」
私は黙って話を聞いていく。
──というよりかは、何も話せなかった。
なにかを話しだすと、涙が出てしまうと思ったから。
「僕は名前ちゃん、君が好きだ。この気持ちには、一分の偽りもない」
熱を含んだ視線が、私の視線を絡めとる。
今の私は酷い顔をしているだろうに、そこから一切動かせない。
「……だからね名前ちゃん、僕に教えて?
君が、僕のことをどう想っているのか、君自身の気持ちを」
「……私、は…」
口を開いてしまったが最後。
私の眼からは止めどなく、涙が溢れ落ちる。
彼が愛しくて、好きだと言ってもらえたのが嬉しくて……。
「私………」
「うん」
「私も、沖田さんが好きです……!」
嗚咽混じりだったけど、たった一言の拙い言葉だけど。
私は、その一言に万感の思いを込めた。
再び私を彼は優しく抱き寄せて、静かに瞼にキスを落としてくれた。
涙を拭ってくれるような唇の動きが、"泣かないで"と言ってくれているようだ。
「……名前ちゃん」
「……はい」
「愛してる、心の底から」
「……はいっ」
そして、私たちは二度目のキスをする。
今度は瞼じゃなく、しっかりと。
唇と唇を重ね合わせて。
いつの間にか日は昇り始めていて、辺りは赤く染まり始める。
沖田さんがふわりと笑う。
私の大好きな、あの笑顔で。
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