人を愛すること、愛されることが、こんなにも幸福で、失いたくない程かけがいのないものと知ってしまったから。
「俺が名前の言う【月】ならば、おまえは【星】だと、俺は思う」
「私が、星?」
そんなふうに言われると思っていなかった、というのもあるけれど、なにより星に似ているというのに意外性を感じる。
思わず呆けた声が出てしまったが、恐らく顔も相当間抜け面をしているんだろうな。
「何故でしょう?」
首を少しだけ傾け、分からないとアピール。
すると彼は再び夜空を仰ぎ見ると、語りかけるかのように口を開き始めた。
「月は、たしかに綺麗な光を放している。
だが、人によってはその光を寂しいものだと感じるだろう」
「…………」
「一つ一つの光は小さいが、確かに輝き寄り添う。そんな謙虚な光が、月の明かりの美しさを際立たせる……。
謂わば、無くてはならない存在だろう。それに、星は己の位置を知る為の道標だ」
「私………」
すがるように、本当にそうだったらと思いを込めて斎藤さんを見つめた。
もしかしたら思い込み過ぎているのかもしれないという不安は、握り拳によって緩和させる。
「私は、斎藤さんが言う星の存在になれていますか?きちんと、道案内出来ているでしょうか……」
彼の口から聞きたかった。
今の言葉だけじゃあ不安だらけの私だから、はっきりとした愛言葉が欲しい我が儘な私だから。
心を満たす、彼の言葉が訊きたいの。
「俺は感情を表に出したり、話すのは不得手だ。だが、しかし……」
彼の視線と、私の視線が絡み合う。
いつにも増して真剣さを含んだそれは、心臓を大きく跳ね上げさせて背筋を伸ばした。
訪れた静寂により、一層心拍音と互いの呼吸音が浮き立つ。
……こういう間が結構苦手な私は、一瞬だろうけど、とてつもなく長く感じてしまう。
焦れったくて、落ち着きが無くなってしまう。
痺れが切れてきたところで、やっと彼は続きを始めた。
「俺は……お前と共に一生を添い遂げたい、お前に触れていたい。これから先も、共に笑い合う未来を歩みたい。
それが今の、これから先の、目標であり道標だ」
……それは遠回しにだが、きちんとした質問の回答。
嬉しくて、これ以上無い幸せで、鼻奥はツンと苦しくなり、涙腺はじわじわと崩壊への道を辿る。
「──だから名前、俺の側に居て欲しい。お前が居るのならば俺は、どんな奴にも例え負けたりはしない。
……俺には、あんたが必要だから」
その答えは、ずっと前から決まっている。
小さく、それでもしっかりと頷く。
何度も、何度も。
彼から離れる気など、微塵も無い。
添い遂げたいという気持ちは、斎藤さんと同じ。
私の答に満足したのか、目を細めて私を優しく抱き寄せた。
それに応えるように、斎藤さんの腰にそっと腕を回す。
「斎藤さんの側に、ずっとありたい。……私にも、あなたが必要だから」
穏やかに笑い合って、夜空を見上げる。
そこには寄り添うように輝く、月と星々が私達を見守っていたのだった。
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