私はどちらかといえば読書が好きだ。無論、外で遊んだりするのも好きだけれど、冬はどちらかといえば家に篭って本とにらめっこしているほうがいい。理由は単純に寒いからというだけなんだが。冬になると出無精になるそんな私が、今年の冬(つまりは十月後半あたりから)、初めて学校に行く以外で外出することになった。しかもちょっとコンビニまで、なんていう安易なものではなく、私的にどちらかといえば重大な用事で。
その用事というのは、まあ言ってしまえばデートだ。もちろん彼氏と。付き合い始めてもうどれくらいが経っただろうか、たぶん二年くらいかな。そんな長い付き合いである彼と初めてのデート。うん、間違いなんかじゃなく初めて、だ。私と彼との出会いは小学生のときで、付き合い始めたのは中学二年生の半ば頃だったと記憶している。そして今、私たちは高校一年生だ。その月日の中でデートをした覚えはまるでない。
彼が特別シャイだとか、家柄とか両親が厳しいとかじゃない。むしろ逆。彼はけっこう色々な女友達と遊んでいるらしいし、内向的というよりかはむしろ社交的。友達も多い気さくな男の子だ。じゃあ何で、と訊かれたらどうしてだろうね、と答えるしかない。だって分からないから。彼も彼の気持ちも、ついでに自分の気持ちも全部よく分からない。

告白は私からだった。出会ったころから仲が良かったせいもあってか、小学校を卒業する頃には彼への気持ちに気付いていた。好きという温かな感情、自分の気持ちなはずなのにまるで別物みたいにおかしな気分だったのを今でも何となく覚えている。彼が現実に対してひどく軽薄な人間だと理解したのはいつだったか。私が好きだと思った笑顔が全て上辺だと知ったのはいつだったか。もうずいぶんと昔のことのようで、それでも今もあの笑顔を浮かべる彼を見るといやがおうでも思い出す。
最初はその儚い笑顔が好きだったんじゃないかと思ったけれど、彼が世界と壁を作る理由がそんな“儚い”とかいう簡単な言葉で片付けられるものじゃないような気がして、それで私は結局彼の好きなところを見失った。どこが好きかと問われて答えられなくなって、でも確かに私の中には彼への恋情が滞在していて。全部、彼に関することが彼に感化されたように朧になってしまった。確か、受験を控えた中学三年の一月頃のことだ。
それはどうやら彼も同じだったようで、というよりもむしろ彼は初めから私のことに関しても他と同じように上辺だったのかもしれないけれど、高校生になって、クラスが別になってからは接する機会がめっきりと減った。彼の幼なじみからは何度も安否を気遣う言葉を貰うのだが、正直なところ私がどうこうできる問題でもなかった。当事者であることに間違いはないのだが、私は彼が好きであるから別れる理由は見つからない。だから彼がどうにかしないと、このおかしな彼氏彼女の関係は変わらなかったのだ。

薄っぺらい関係になってしまった春から月日は流れて冬になった。私は例年同様、休日は紅茶片手に読書を楽しんでいたのだが、十一月中旬、どうしたものか彼から電話がかかってきた。内容は翌日遊びに行こうというデートのお誘い。何週間ぶりかに聴いた彼の声は声変わりをしたわけでもないのに少しだけ変わったように聴こえて、そのせいか何だか前以上に彼を遠くに感じた。彼氏だというのに不思議な気分だなあ、とのんびり考えながら承諾の返事を返した。
そして今、私は珍しくめかし込んで待ち合わせ場所に向かっている。時刻は午前十一時三十八分。待ち合わせの七分前。予定ではあと二分もすれば目的地に着く。初めてのせいか、それとも久しぶりに彼に会うせいか、柄にもなく緊張をしていた。待ち合わせ場所が近づくにつれてバクバクと加速する心音に比例するように早足になる。なんだかこの矛盾した感覚が彼への好意を自覚したときに似ているように思えて少し笑えた。

「あ、鴇…。」
「ん?ああ、やっと来た。」

早足になったせいか予定よりほんの少し早くついた目的地ではすでに彼が待っていた。ビックリしたように思わず名前を零せば、それを聞き取った彼が私の方を見てニッコリと笑う。偽りだとわかっていても、久しぶりに見た笑顔はどこか新鮮に思えた。やっぱり彼の笑顔が好きなようで、顔に熱が集まるのを感じた私はそれを隠すようにマフラーに顔を埋めてから「ごめんね、待った?」と彼に駆け寄る。今さらながら本物のカップルみたいだなあと思った。いや、本物なんだけれど。

大丈夫だ、と微笑んだ彼は自然に私の手を取ってファーストフード店へ入る。それからは本当にありきたりなデートをした。映画を見たり、ゲーセンでプリクラを取ったり、公園でクレープ食べたりエトセトラ。そんな中でふと彼が彼でないように思えた。というのも何だかすごく必死に見えたから。上辺をなぞっているわりにはデートを必死に楽しくさせようと私を導いてくれているような気がして。だから、帰り道に彼の紡ぐ楽しい会話を遮って訊いてみた。我ながらすごく勇気を出したと思う。

「ねえ、どうしたの?鴇なんか変だよ。」
「え、何が?俺はいつも通りだよ?」
「ううん、違う。だいたいデートに誘ったことからしていつも通りなんかじゃないよ。まるで…。」
「まるで……本当に好きみたい?」
「え、?」

私が言う前に彼に言い当てられてしまい目を見開いた。見上げれば苦笑いする彼がいて、私はわけがわからず首を傾げる。

「本当に好きだよ。俺自身もビックリしてる。お前だって気付いてたろ?俺が全てに曖昧なことくらい。それなのに、なんだかお前がいないと気持ち悪くってさ。」
「えと、あの…。」
「最近の俺たち全然付き合ってる風じゃなかったじゃん?だからさ、今までのことは全部なしにして、改めて俺から云うよ。」

暗くなりはじめた夕焼けを背に、彼は見せたことのない純粋な笑みを浮かべて「好きです、俺と付き合ってください。」と私に手を差し出した。


曖昧な愛の結果 //「踊ろうか」様へ提出



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