垂れ目だけれど睨んだときの目つきは存外鋭い。最初、塾で一緒になったときは怖くてとてもじゃないがお友達になることすら無理だろうなんて失礼なことを考えていたんだけれど、それが今はどうだ。お友達なんていう生温い関係は飛び越えて彼氏彼女の関係にまで発展しているではないか。しかも親公認である。きっかけはなんだったのか、思いだそうにもずいぶんと昔の話のような気がした。
ごめんごめんと軽く笑うと彼はすぐに許してくれる。そこにタイミングよく注目していたケーキが届いたからなおさらだ。私は小さいときからモンブランが好きなんだけれど、ここのカフェのモンブランは特においしい。おそらくはにやけているであろう顔を気にすることなく一口運べばふんわりとした甘さが口の中いっぱいに広がって幸せな気分になった。
ふと金造はチョコレートケーキだったよなあとモンブランから視線を移すとばちりと視線が合った。頬杖をついて私をじいっと眺めている。なんだか今の一連の行動がそんなにばっちり見られていたのかと思うと少し恥ずかしかったけれど金造だから甘んじることにする。だってそんなこと気にしてたんじゃあ面倒くさい。彼氏にいいとこばかり見せるなんて、そんな虚構は私は嫌いだ。
「ケーキ、食べないの?」
「食べとるで。」
「一口だけじゃん。」
「せやかて、お前見よるほうがおもろいさかい。」
くつくつと笑った金造はそこでようやく二口目のケーキを口に運んだ。チョコレートケーキにジンジャーエールってどういう組み合わせだ。あいにく炭酸が飲めない私には試すことができないから一生わからないけれど。
私を見て何が面白いのと少し膨れっ面で問うと全部だとアバウトな返事をされてうなだれる。全部って、つまりは存在自体が面白いっていうことなのかなあ?それはそれで悲しいような、嬉しいような…。いや、確実に悲しいか。可愛いとかならまだ喜んだのだけれど彼氏から面白いと笑われて素直には喜べまい。むうっとするとまた頬杖をついた金造は利き手で器用にフォークを回しながら、そんな私を見つめていた。
確かに友達からも見ていて飽きない存在だとはよく言われるけれど、まさか金造からも言われるなんて思わなかった。返す言葉が見当たらずあぐねた結果、頬杖は行儀が悪いという母親めいた小言が口をついて出る。なに怒っとんやと不思議がる声が降ってきたけれど無視してモンブランを食べた。やっぱり甘くておいしい。少しモヤモヤしていた感情はたちまち飽和されてしまった。
「お前、ほんまに幸せそうな顔して食うな。」
「うん。だっておいしいもん。」
「そんなん何回も聞いたて。せやけどお前のそないな顔見てるとこっちまで嬉しゅうなってくるわ。」
またカラカラ笑った金造は三口目を食べるとジンジャーエールを一気に飲み干していた。さしずめ自分の言ったことに後から恥ずかしくなったんだろう。その証拠に顔がほんのり赤い。それでもやっぱり彼は頬杖をついて私を眺める。どうやら注意しても頬杖を直す気はないらしい。そういえば高校生のときから授業中はずっとこんなだったように思う。
「ねえ、チョコケーキちょっとわけて。」
「ええよ。ほな俺もモンブラン一口もろてええか?」
もちろんと元気よく笑ったあとで一口ぶん取った私のスプーンを差し出すと、金造は鳩が豆鉄砲を食ったように目を点にする。それからすぐにスプーンを奪われて自分で食えるわと言われた。なんだよう、一回くらいはあーんてやってみたかったのに。つまらなさそうに口を尖らせた私は渋々自分でチョコレートケーキを一口食べた。
金造はスキンシップは激しいほうだとは思うけれど、こういう恋人らしい…手を繋ぐとかあーんとかそういう細かいところはすごく恥ずかしがる。そんなところも可愛いんだけどと言うと怒るから言わない。格好いいって言ってもたぶん怒られるけれど。チョコレートケーキもなかなかおいしいなあなんて思いながらそんなことを考えると金造がまた私を見つめていることに気づく。
クスクスと笑うと金造はわけがわからないといった表情で首を傾げてどないしたんやと私に問う。別にどうもない。しいていうならばモンブランの甘さに乗っかって到来した甘い感情が少しくすぐったかったからと言おうか。やっぱり好きなんだよなあ、と小さく呟くと彼はますます理解できないというふうに眉間にシワを寄せて、フォークを回していた。
嬉しそうに見つめてくれるところ //「一応説明させてもらうと」様へ提出