それにちょいムカついた俺は雑誌を取り上げて彼女を自分のほうに向かせると再度同じようなことを問う。それでもやっぱり面倒くさそうな表情をしはった彼女は一瞬くらいは悩んだもののやっぱしやめてしもうたらしく、いやだと言うてそっぽを向かはった。それがなんやしゃくやったさかい意地悪程度にその唇を塞いでやると、舌を絡める前に彼女は仕返しという名目で噛み付いてきはった。思わず口を離すと勝ち誇ったようににんまり笑いはった彼女は「ほうら、好きじゃん。キス。」と言う。ああ、なるほどな。
確かに言われてみたらキスはようするほうやとは思う。せやけどそれ以上の行為をしてへんのは、我ながら頑張っているほうやないかと褒めてやりたいくらいや。なにかと盛りの思春期に彼女は誘うように露出を高めたり、潤んだ目で上目遣いしてきたりと、とにかくエロい行動をしはる。そしてそれを狙うてやってるんやなく普段からこうやというのやから驚きや。俺が彼氏でほんまよかったなあ。せやないと今頃どこの馬の骨ともわからん不埒な野郎に処女は奪われとるはずや。
身体を重ねる行為をせえへん代わりにキスで賄うくらいは許してくれてもええと思う。健全な男子やったら好きな女の子に触れたいと思うんは極々自然の理やと思うし。せやから少しくらいキスが多くてもええやろ?と言うと理屈がよくわからないとため息を吐かれてしもうた。おまけに自分はそんな誘うようなことをした覚えがないと妙なとこでツッコミを入れられるからどうにもならへん。
彼女は相変わらず他人とは少しズレとるらしい。俺はそないなとこも含めてかわええなあと思うし、好きやけど。坊や子猫さんなんかはようわからんやつやと首を傾げるばっかや。まあその方がええんやけど。そない簡単に彼女の魅力わかられたら敵わへんわ。いつやったかそない力説したら「阿呆、寝言は寝て言うから寝言なんだよ。」とようわからんこと言われて一蹴されてもうたような気がする。たしかそん時も読書しよるときやった。雑誌やのうて普通の文庫本やったけど。
「まあ、よくわからないけど、いいよ。キスいっぱいしても。志摩くんのキス嫌いじゃないし。」
「ああ、ほら…もう……。まあたそないなこと言うんやから。」
「はあ…?本当のこと言ってなにがいけないの。好きな人にキスされていやな人ってそうそういないと思うけど。」
そない言いながら俺が取り上げて傍らに置いとった雑誌を取ろうとした彼女を思わず押し倒してしもうた。…たぶん俺は間違ってへんと思うで。今のはいつにもまして俺の理性に強烈な打撃を与えてくれはったわ。たぶんあれで上目遣いとか、風呂上がりとかやったら言い終わる前に押し倒しとったかもしらへんけど。幸か不幸か、彼女はまだ風呂にはいってへんかったし、目線は完全に雑誌のほうに向いとった。
ビックリしたような表情をして口を開いた彼女が言葉を発する前にそれを塞ぐ。おそらくは純然にもどうかしたんかと問おうとしとったんやろう。そろそろ十六歳になる女子高生がこーゆう方面についての知識が皆無とは思いがたい。せやけど、いかせん天然ゆうか妙に鈍い彼女のことや。またいつものスキンシップやと思っとったんやろう。特に抵抗する様子もあらへんまま俺の舌の侵入を許しはる。濡れた声がところどころで漏れはるのを聴いて俺はリミッターの限界を感じた。
そこでまた、彼女はやってくれはった。弱々しくもまた俺の舌を噛んだんや。しかもさっきと同じとこを、や。それでハッとした俺は急いで彼女の上から飛びのいた。無意識ゆうんは怖いもんでいつの間にか彼女の両腕を拘束していたみたいや。…これって、噛まれへんかったらどないなってたんやろう、俺も彼女も。溜まりに溜まった欲望が彼女のちょっとした言動に掻き立てられて溢れ出す。人間の本能て怖いなあ。
「苦しいよ、志摩くん。あんな長いキスするんだったら先に言ってよ。」
「……お願いやから、もう喋らんといてください。」
また変なことを言いそうやった彼女を、彼女のためにも俺のためにも制してそない言うた。彼女は意図が汲み取れんかったんか疑問そうに首を傾げとったけど、雑誌を返してもろうたことで満足したらしく再び俺の股の間に座ってページを開く。そういえばいつからここは彼女の特等席になったんや。ヒリヒリと痛む舌を自分の歯列をなぞることで痛さを和らげながらぼんやりと考えた。
ちゅちゅ //「いやら志摩家」様へ提出