そんな私に転機、というかありえないことが舞い込んできたのは先日のことだった。クラスでも明るく男女ともに人気のある藤堂くん。話したことなんてたぶん業務連絡くらいのはず。それなのに放課後呼び出されて告白されてしまった。彼を好きだという女の子はたくさんいる、はずだ。その中に可愛くて気配りができて、何より私みたいに根暗じゃない女の子だっている、はずだ。というか私を基準にするとだいたいが根暗じゃなくなる。まあ私のは根暗というのとは少しニュアンスが違う気もするけれど、似たようなものだから気にしない。
一瞬、罰ゲームかなんかじゃあないのかと思った。漫画なんかでよくあるタイプの、ほら、なんだ。人気者が地味な子に告白して期待させちゃう非道なやつ。でも告白してきたのは藤堂くんだ。よく知っているわけじゃないけれどとてもそんなことをするようには見えない。単に私の勝手な思い込みかもしれないけれど。どう返事をするべきなのか、わたわたとしていると頭を下げていた彼が急にこちらを見遣るもんだからすっかり視線がぶつかってしまった。途端に私のは体温は急上昇。人と対面することを苦手なせいもあるのだけれど、こんなにも格好いい人から告白されたんだと実感してしまったから。
ほんと、どうして私なんだろうと思うくらいに藤堂くんは端整な顔付きをしている。それにスポーツだってオールマイティになんでもこなす。勉強だって見かけによらず、なんて言ったら失礼かもしれないけれど、存外できるらしく特に理数系は得意分野なんだと誰かと話しているのを聞いたことがある。私なんか見かけによらず全然勉強ができない。かといってスポーツ万能というわけでもなく。よくよく考えてみたら私には何の取り柄もない。うわあ、最悪。
今にも逃げ出したい衝動に駆られて私は急いで踵を返そうとしたけれど藤堂くんはそれを悟ったのか私の腕をパシリと掴んだ。そこからまた熱が全身に駆け巡るようにして溢れ余計にいたたまれなくなる。泣きそう、というわけじゃないけれど恥ずかしいから俯いたら彼は申し訳なさそうな声色で私に謝ってきた。別に彼が悪いことをしたわけじゃないのに叱られた犬がうなだれるみたいにシュンッとしている様は少しだけ可愛くて思わず笑ってしまう。そんな私を見て藤堂くんが顔を真っ赤にしていたのは誰も知らない。
彼は返事はいつでもいいからと優しく頭を撫でてから部活に行ってしまった。確かサッカー部だったかなあ。最近あったリーグ戦について教室で熱弁していたことは記憶に新しい。その試合はよくわからないけど世界規模だった気がする、ニュースかなんかでしていた。私はスポーツなんててんで興味がなかったけれど帰ったらルールくらいは調べてみようかなあなんて考えたのはどういう風の吹き回しか。校舎裏に取り残された私は体内に残留する熱を気にすることなく彼に撫でられた箇所に自分の手を置く。やっぱりそこは熱がこもっている気がして恥ずかしくなった。
そんな羞恥を掻き消すために教室まで走り出した私の体は初夏特有の生温い風を切る。覚めやらぬのは何か、考える余裕など微塵もない。次の日教室で顔を合わせたら何て言ったらいいんだろう。どんな顔をしたらいいんだろう。これからどうやって接していくべきなんだろう。熱とともにのたうちまわる疑問は大気にとけることなく私の中に留まる。誰もいない教室でへなりと座り込んだのもつかの間、カーテンの隙間から覗いたサッカー部の中で真っ先に藤堂くんを見つけてしまった私はもうどうにかなりそうだった。
翌日、私の心配など掻き消すように藤堂くんがキラキラと眩しい笑顔でおはようと言ってきたのはまた別のお話。少しだけときめいたのは誰にも言えない私だけの秘密。うだるような暑さは余計に私の体温を上昇させるだけで、これからのことについてなんてこれっぽっちも教えてくれなかった。
ロンリーシャイガール //「砂糖をひとさじ」様へ提出