オズの監獄
第五話『案山子(カカシ)計画』

「本当にコッチで大丈夫だよな!?」
道標のレオンは別行動。現在は死闘の真っ最中だろう。
「多分ね。前話した時シィちゃん言ってた。他より一回り大きな緑の扉がここの創立者ウィキッドの部屋だって。外に出るにはその部屋を通る他無いんだって」
落ち着きを取り戻したドロシーは先頭を走ってた。
「アレ…」
ブリキが静かに指差す先にはドロシーが言ったとおりの緑で大きな目立つ扉があった。
「確かウィキッドって行ったら魔女と恐れられるここの監長だよな。収監される時必ず会う…」
「そうらしいわね。私興味なかったから顔とかあんま見てないんだけど…魔女って事は女なのかしら?」
最早声すら聞いてなかったらしく それは二人も同じことで「じゃないの?」としか返答は出せなかった。
ギィィ…。
重い扉が開く。
「コンニチハー!」
ドロシーの明るい声が室内にこだまする。
だが三人とも誰も居ないこと希望だった。
「ようこそ囚人方。今日も良い天気ね」
残念ながら吹き荒れる嵐を窓から幸せそうに眺める人影を発見してしまった。
「ドロシーちゃんと…今はカカシくんブリキくんね」
監獄で起きたことは監視カメラもないのにウィキッドには筒抜けだった。
「親に見棄てられた者同士仲良くやってる?」
総てを見透かしたような妖艶な笑み。美しいと言うより不気味と言う方が合っているだろう。
「え…」
ドロシーが声を漏らす。
彼女は早くに親に捨てられ独りで生きて来ていた。ブリキも親に売られたのだろう そして博士にも。
カカシもそうなのか。
「考えてみればバカだよね〜」
不意にやれやれと言った感じでカカシが口を開く。
「親の賭博の金を散々女使ってかき集めたのに 気付けば俺と犯罪歴置いて金だけ持って夜逃げだよ。ヤんなっちゃうよな」
自ら過去を喋り出したカカシ。「あの頃の俺はそれしか知らなかったし」と自分を笑う。
「名前なんて有って無いようなものね。オズでいう番号程度の物だもの」
ウィキッドが付け足す。
「だからあの時名前を言わなかったのね」
「…?」
ブリキに会う前 はりつけ場での事を思い出す。
「さぁて!」
唐突にウィキッドが手をパチンと鳴らし空気を一新させた。
「脱獄囚さん方はどうするおつもり?」
ドロシー達の入ってきた扉とは違う扉を指差す。
「アレが外に繋がる扉。廊下を渡り最後の扉を開けば晴れ渡る"外"に出るのよ」
しかし囚人をすんなり逃がしてくれるわけがない。となると方法は1つ。
強行突破。
「ハイ!俺残りまっす」
威勢良くカカシが手を挙げる。
「おや」
視線が再度カカシに集まる。
「取り合えず…時間稼ぎッつうコトで」
頬を引っ掻きながら困ったように笑う。自分一人でどうこう出来ない相手なのは重々承知の上の発言だった。
「ヨロシイですか?」
ウィキッドに無駄に丁寧な質問をする。小馬鹿にしたような台詞は精一杯の挑発だった。
通用はしない。それでも自分が挫けないために。
「良いわよ」
余裕以外見受けられない笑み。
「どういうこと!?貴方までいなくなるき?」
折角ついさっき落ち着いたというのに また目に涙を浮かべ叫ぶドロシー。ブリキはどうして良いか判らず肩を軽く叩いてどうにかドロシーをなだめようとしてみる。
「ハハッ…。俺のタメにも泣いてくれんダネ。まぁだから残るんだけど」
恐怖の中に何処と無く嬉しそうな笑みが混じる。
「空っぽだった俺をキミ達は埋めてくれるんだ。それに初めてココロから仲間と呼んでくれた」
胸に手をあて嬉しそうに目を閉じる。
「だから俺はキミ達を守りたい」
決意は固まっていた。揺らぐことない決意が。「役者不足かも知んナイけどネ」と付け足して。
「さぁ 出口はあちらですよ。その子に免じて私は気の変わる前なら逃がしてあげるわよ」
何をしたのか自動で扉が開く。
「…」
ドロシーを無言で落ち着け様とするブリキ。無表情ではあるが慣れないことに戸惑ってはいるようだ。
「ブリキ」
カカシがウィキッドを真っ直ぐ見たまま背中越しに話し掛ける。
「ドロシーちゃんたのむ」
どんな表情で言ったかは判らないが言葉には十分すぎる意志が込められていた。
「…ワカッタ」
命令ととったかどうかは定かではないがブリキもまた自らしたいと思った行動だった。
ドロシーはブリキの必死のなだめが効いたのかレオンの時よりは取り乱していなかった。片腕を引っ張るだけで着いて来てくれる様だった。
扉を潜るさい唐突にドロシーが引き返さないよう注意した立ち位置を確保するブリキ。扉の柄を持って少し悩んだ風なそぶりをするとカカシに言った。
「サキに行ってる カナラズ来いよ」
それはレオンにカカシが言った言葉だった。
「もちっ」
片手をヒラヒラとふり最後の扉を目指す二人を見送った。

二人の去った重苦しい空気の部屋。嵐だけが響く中二脚のティーカップに紅茶を入れてきたウィキッド。
「君にだけは教えておいてあげるけど…」
片方の紅茶に軽く口を付けて話をし出す。
「最後の扉は普通の鍵じゃ開かないのよね」
「…え?」
行った二人は知らないだろう。
ゆっくりした空気が取り巻く室内でウィキッドが渡した紅茶は急速に冷めていった。


かくしてドロシーの脱獄仲間が二抜けた。

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