オズの監獄
第一話『脱獄計画』

「そうだ 脱獄しよう」

それは少女にとって誰に言うでもない自分自身への軽い提案だった。


少女の名はドロシー。盗み 恐喝 詐欺 殺人…十数歳という若さで人が思い付く範囲の犯罪なら大半はやりつくしただろう重犯罪者。そしてそんなドロシーは今 オズの監獄に収監されている。
"オズの監獄"。それは普通の監獄では手に終えなくなった重犯罪者達が収監され 残る余生を死刑を待つためだけに費やす場所。周りには年中嵐が吹き荒れ ここからの脱獄は生き延びるよりも困難だとされている。
現にこの監獄から生きて外に出られた者は未だ0人だ。
ドロシーはちらりと外を見た。嵐で視界が悪い中 辛うじて真下辺りの死刑場が見える。人より巨大な十字架が嵐に逆らい幾つもそびえている。
はりつけ。
それが十字架の使い道だ。
「おや?」
ドロシーは数有る十字架の1つに目を凝らす。
人だ。
最近刑が執行されたのか腐敗の跡が見えない。
「よし。アイツも勧誘しよう」
勿論生きていたらの話だが。
どうせ外への扉は反対側の監獄に有る。間に造られたあの死刑場を通らなくてはならないのだから勧誘はそのついでだ。
「あー 楽しくなってきた!」
両手を上に広げくるくると周りだす。
「囚人番号37-564番静かにしろ」
「はぁい!」
基本ドロシーは飽きてくると歌い出したり一人言には大きすぎる声で話し出したりするので いつもこんな感じの注意で終わる。
「レオン 後は任せたぞ」
看守が1人の兵士に言った。昼食に行くのだ。
残ったレオンと呼ばれた兵士は随分大きな槍を両手で抱えドロシーのいる檻の横に立った。
「…貴女の歌 僕は好きです」
レオンが振り返り笑顔で言って来た。
「あら 有難う」
ドロシーも笑顔で返す。
「貴女がよく歌ってるの御母様の故郷の歌です」
レオンがシュンと眉を下げ涙を浮かべる。
「御母様…病気なんで高価な薬が必要なんです。でも僕弱虫だからここ以外は何処も雇ってくれなかった」
看守が昼食でいない間のこんなレオンとの会話も最近では当たり前の様に交わされている。
「シィちゃんはお母さんに会いたい?」
首をかしげドロシーが聞く。因みにこの"シィちゃん"というのはレオン→獅子→シィちゃんとドロシーが決めた呼び方だ。どうもレオンからの気に入った呼び方が無かったらしい。
「ええまぁ…会えるなら」
レオンもおどおどと小声で返事をする。
「じゃあさ…」
ドロシーからの提案。
「一緒に脱獄しよっか」
正しくはレオンの場合は脱獄とは言わない気もするがこの際関係はなかった。
「はぁぁ!?」
檻の隙間から真っ直ぐレオンの元へ伸ばされたドロシーの腕。満面の笑みで共犯の誘いをして来た。
「駄目です!お金は貯まりましたが 捕まったら没収どころか収監されて一生会えませんっ!」
レオンの不安をよそにドロシーは打開策を出してきた。最も単純で難しい事。
「? 捕まらなければ良いんでしょ?」
捕まるなんて事は一切考えてないようできょとんとしている。自信家と言うべきか莫迦と言うべきかレオンには判らない。
「でも…」
「はいっケッテー!」
狼狽えるレオンの手を半ば無理矢理掴み握手した。
「シィちゃんとなら心強いわ」
「!!」
その言葉にレオンは握られた手を握り返した。


かくしてドロシーの脱獄仲間が一人。

[ 14/111 ]

[*prev] [next#]
戻る


top


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -