ほらまた

「寒くはないですか?」

眠くはないが時間も時間なので明日の為に布団に潜れば、気付いた鬼灯が一声かけてきた。
彼はまだ机で読み物をしているので、寝る気はないのだろう。

「全然、温めておきますよ」

鬼火の身である体温で、夏とは遠くなった季節のひんやりとしてきた布団を暖めるのくらいわけない。
大きな腹に負担をかけないよう横向きに寝そべり、鬼灯を見るために若干見上げる。
おやすみなさいと笑えば、おやすみなさいと静かに返された。





気が付けば暗くなった天井を見上げていた。
電気が消えている。
真横には気配がするので、鬼灯が寝ているのだろう。
消灯された部屋の天井を見上げながら、目覚めた事にヒサナは違和感を感じていた。

つい先程も、こうして目が覚めた気がする。

目覚めた後、眠くてまた寝たような。
何度か繰り返した覚えのあるうっすらとした記憶は夢か現実か。
夜中に目が覚めるのは珍しくもないが、覚えた違和感はそれだけではない。

「…っ?」

お腹が痛い。
腹痛なんて感覚は鬼火となってから感じたことはなかったが、これは確かに腹部が痛んでいる。
体制を変えて、そういえば先程目が覚めたときもこうして痛みが落ち着いたので眠気に身を委ねた。
しかし今回はそれだけではおさまらない。
少し腹を抱えるように背を丸めるが、それでも変な痛み方はそのまま。
ヒサナは腹を抱えて目蓋を閉じる。
そして消灯された暗闇とはまた違う目蓋の裏の世界で考えた。
予定日まで日はまだあるが、まさかとは思うが母親教室で聞いた物に、似ている気がする。

「どうしましたヒサナ」

起こそうか迷っていれば、隣でもぞもぞ動いていたから起こしてしまったのだろう鬼灯が身を起こして肩に手を添えてきた。
その手にゆっくりと振り返ったヒサナの耐えるような表情に、鬼灯は眉根を寄せる。

「大丈夫ですか」
「…だいじょばないかも…?」
「どうしました」
「陣痛…来たかも」

これが陣痛なのかわからないが、いつも赤子が腹の中で動いていたのとはまるで違う。
前屈陣痛や本陣痛等の特徴の話を聞いて、そんなのわかるのかと思ったが、成る程来ればわかるとは確かにこの事。
これで気づかない方がどうかしてる。

「…っ」
「貴女先程から何度か起きてますよね、いつから」

前言撤回をしてもいいだろうか。
痛みの波が来ていたのに気付けていない上に何度か寝落ちしている、どうかしている自分がいるわけなのだが。

「わかんない…」
「…目が冴えてるあたり痛む感覚は強くなってる感じですかね。朧車を呼びましょう」

瞬時に判断し布団を出た鬼灯が、卓上の携帯を手に取り操作しながら廊下へ出る。
流石今回の妊娠にあたりヒサナよりも医学書や妊婦雑誌等を読み漁っていただけあり、鬼灯はヒサナよりも冷静に対応している。
頼りになると引かない痛みに顔をしかめていれば、いつの間にか戻っていた鬼灯にやんわりと頭を撫でられた。

「…すみません、何もできませんが」
「いえ全然…車、ありがとうございます」
「私が運んだ方が早いですが、二人に何かあっても困りますからね。焦ってもどうしようもありませんから、大人しく、朧車を待ちましょう」

冷静でありながら、はやる気持ちを必死に堪えているような、珍しくそわそわとした落ち着きに欠ける鬼灯を物珍しげに見上げる。
いまだ頭を撫でてくれているリズムに、自然とヒサナは呼吸を合わせて少し落ち着いていた。

20180324

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