所詮この程度




※狛枝が社会人で未来機関で働いている





ボクの仕事は世界規模の大きな会社のため、海外によく行く。1年の半分くらいは海外で過ごしていると言っても過言では無いくらい。お金は親の遺産があるからそんなに働かなくてもいいのだが、何しろ憧れ続けている超高校級の希望と同じ仕事をやれるというのだからやらない訳がない。そんなことをぼんやりと考えているうちにマンションに着いた。タクシーを降り、中のエントランスへ入るとボクの郵便受けの所に無理矢理詰め込まれた契約している外字新聞があった。律義なものだと思いながらもいらないから無視をして部屋へ行こうとしたが、よく見ると新聞ではない何かが見えた。気になったボクは新聞を全部とり、わからなかった物体を取り出すと一通の手紙だった。ボク宛に?誰かの間違いかと疑ったが、宛先を見ると確かにボク宛だった。送り主は名字名前。懐かしい。名字とは中学の時のクラスメイトで中学時代の男も女も含めて一番仲がよかった子だった。お金目当てで近付いて来た訳でもなく、ボクを気味悪がらずにごく普通に接してくれた子。手紙の内容はなんだろう。部屋に着いて、コートを掛けてから開けて見てみると、予想もしていなかった名字の結婚式への招待状だった。日付を確認すると丁度休みの日で、式場も近いから行こうと思った。


当日、式場に行くとそれなりに人が集まっていた。名字のことだから本当に仲がよかった人やお世話になった人しか呼んでないように思えた。それにボクが選ばれるなんて光栄過ぎて申し訳ない。少し早く来すぎてしまったか、話す人もいないので座って待っていると
『狛枝 凪人さん、狛枝 凪人さん。東フロア化粧室前まで御越しください。』
何故かボクを呼ぶアナウンスが流れた。思い当たる節は無かったが席を離れ、館内の地図をみて呼ばれた場所に行くと、ウェディングドレスを着て、化粧もしっかりとしている名字がいた。ボクは成人式には仕事が忙しくて出席できなかったから本当に久しぶりに見たが、昔の面影があってすぐにわかった。ボクは何故か声が出なかった。すると名字がこちらに気付いてくれて、笑顔でドレスを軽く持ちながら軽い足取りで来てくれた。
「わざわざアナウンスで呼んじゃってごめんね。狛枝久しぶり、変わらないね!」
名字は昔と変わらない笑顔を向け、少し大人の女性らしくなった声でボクに言う。
「そうかな?高校に通って自分としては変わった気がするんだけどな」
「そっか、狛枝とは中学以来なんだね。高校も同じところに行きたかったけど、狛枝は希望ヶ峰学園なんて凄いとこ行っちゃうし」
名字が軽く笑いながら言った「高校も同じところに行きたかった」という発言に、心の中で少し動揺してしまった。そんなこと中学の時には一言も言っていなかったのに、今更。そんな心境を隠すために、名字に感づかれないように話題をかえてみる。
「ねえ、名字の結婚する相手ってどんな人なの?」
名字は突然振られた話題に一瞬戸惑う素振りを見せたが、照れたように顔を赤くさせ、
「…凄くいい人だよ」
と小声で言った。いい人、か。簡単な表現方法だけど、名字が幸せな顔をして、言葉の裏では「狛枝では敵わない人だよ」と言っているようにも思えて少し怖くて背中が冷たくなる感じがした。
そこで遠くから、名前ー、名前ーと名字を探す声が聞こえた。
「あ、もうこんな時間。ごめんね!…あとね、狛枝。私、もう名字じゃないから。次呼ぶ時には気を付けてよね!」
そう言って名字は声がした方へ去っていく。ああ、そうか、もう名字はいないんだ。と改めて思うと、なんだか切なくなってきた。
あの時のままの名字が良かった、なんていうのは所詮ただのボクのエゴである。こうして見えない所の駆け引きをお互いに気付かないふりをしてやるんだから、時間は流れてしまったんだということを嫌でも痛感した。




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