吉良吉影と受付嬢

それから、取引先へ伺って必要な書類を渡したり、必要事項を伝えたりした頃には、時計は十一時半を回ったころだった。会社に戻ると、時計は十二時。…丁度いい。山崎君の元カノとやらに会いに行こう。ついでに、お昼にでも誘って、僕の好みかどうか見極めよう。

「名前、先にお昼行ってくれば?」

会社に戻り、受付の前を通る際に聞こえた会話。…ちなみに、山崎君はサンジェルマンのサンドイッチを買いに行ってしまった。

『え、でも枢、今日お昼持ってきてないんでしょ?サンジェルマンのサンドイッチ、売り切れちゃうよ?』
「…うーん、今日はいいや!社員食堂で塩サバ定食食べたくなったから!」
『何それ…!』
「もー、笑わないでよ!魚好きなんだから、いいでしょ!」
『いいね、健康的じゃん?』
「でしょ〜?」

一度オフィスに戻ろうかと考えたが、ターゲットの女が席を外しそうな雰囲気なので、エレベーターを待つふりをして聞き耳を立てた。

『…じゃあ、お言葉に甘えて、先にお昼もらうね!』
「うん!いってらっしゃーい!」
『明日は枢からお昼ね!』
「了解!」

…どうやら、ターゲットが席を立ったようだ。エレベーターの影からその姿を目で追う。彼女は財布を手に持ち、ロビーから出て行った。…追いかけるか。すぐさま女の後を追う。…勿論、自然な感じを装って。ロビーを出ると、女は会社の前にある横断歩道で信号待ちをしていた。…これはチャンスだ。

「…やあ、」
『…え?』

…少し、不自然だったか?

「確か、受付の名字さん…だったかな?」
『…え、と、そうです…けど…。』

振り向いた女は、僕の顔を見て密かに顔を赤くした。…これは丁度いい。

「ああ、すまない。営業部の吉良吉影いうものだが…。」
『…は、はい。存じてます…。えっと、何か…?』
「…いや、どうやら君もお昼に行くようだから、一緒にどうかな、と思ってね…。…ああ、嫌ならいいんだ。いきなり声を掛けてしまって悪かったね。じゃあ。」
『え、ちょ…、』

…よし、初めはこんなものか。名字名前に背を向けて、少しゆっくりとだがその場を去る。さて、どうくるか…。

『き、吉良さん!』
「…ん?」

…掛かった…。振り返ると、財布を胸に抱えて何か言おうとする名字名前。

『あ、あの…、一人でお昼食べるのも、何か寂しかったので…その、一緒に…、』
「…いいのかい?」
『…は、い…。』

…さて、どういただこうか。

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