吉良吉影と受付嬢

会社が動きだす時間。…泣きたくなった。

「枢ちゃん、おはよう!…名字も。」
『…あ、おはよう、ございます…。』

…元彼だ。どうやら、彼は外回りに行くらしい。会社を出る前に、片思い中の枢に会いに来たんだろう。すでに名字呼びに戻っている事に、彼と私との距離が遠ざかったことを思い知らされた。

「あ、おはようございます。ちょっと、ここで聞くのもどうかって思いますけど、どうして名前と別れたんですか!?」
『ちょ、枢!?』
「いいでしょ、名前。聞いてみないと、私納得できないもん!」

あんなに仲が良かったのに…。と俯く枢を見て、なんだか切ない気持ちと、悲しい気持ちが重く心に圧し掛かった。枢は悪くないのに…。

「…そんなに気になるなら、今日、俺と食事でもしない?勿論、二人でだけど。」
「ちょっと、まじめに聞いてるんですけど!」
「冗談だって!ま、俺に好きな人が出来た。…ただそれだけだよ。名字もそれ聞いて、別れること了承したんだし、問題ないっしょ?」
「……本当?名前…。」
『…ま、まあ…ね。』
「ねぇねぇ、俺の好きな人、気にならない?」
「え〜?全く気になりません!名前に失礼だから、こういう話は余所でしてください!」
「枢ちゃんから聞いてきたのにー。」

そう言って、もう行くから。と会社を後にしたアイツ。ふぅ、と小さく息を吐きだすと、少しだけ、心が軽くなった気がした。

「あれ、吉良さんも一緒なのかな…?」
『え?』
「いや、ほら…あそこ。」

枢が指差した先には、元彼と、今朝、私に挨拶を返してくれた男…吉良吉影さんがいた。

『あの人が、吉良吉影…?』
「うん!ねぇ、カッコ良くない?」
『…言われてみれば…、』

会社から離れて行く二人。ちらりと見えた横顔だったが、それだけでも、吉良吉影という男の、整った目鼻立ちがはっきりと分かった。

『…カッコいい…ね…。』

きっと、これがきっかけ。

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