吉良吉影と受付嬢

暫くして、吉良さんが公園に入ってきた。私は立ち上がり、吉良さんに手を振った。吉良さんは私に気付くと、小さく笑って近づいてくる。その顔に、胸が跳ねた。嗚呼、素敵だな…。

「やあ。」

二人で座り、お昼ご飯を手に取った。なんだか楽しい気分になって、自然と顔が綻ぶ。コンビニの袋から買ったお昼を取り出していると、吉良さんがわたしの顔を見ていたので、笑い返した。

「今日はやけにご機嫌だが…、何かあったのかい?」
『…それが、私にもよくわからないんです!でも、何だかとても清々しい気分なんです。昨日、何かとても嫌なことがあった気がしたんですけど、そんなことどうでもいいって思うくらい、清々しい気分。ね、吉良さん、今日も“手”、触りますか?』
「…ああ。」

お昼を食べた後、吉良さんに手を預けた。吉良さんは昨日同様、私の手を好き放題触り、時折舌を這わせた。くすぐったさに身を捩った。

『本当にお好きですね。』
「…あぁ、本当にいい手だよ、君は。君の手が欲しい…。」
『…あげますよ、私。吉良さんになら、この手、あげます。』
「………冗談さ。そんなことを言ったら、僕は本当に君の手を貰ってしまうよ。」

そう言われて、ドキン、とした。一人勝手に恥ずかしくなって、話題を変えようと考える。

『…あ、そう言えば、今朝すごく騒ぎになってたんですけど、どうかしたんですか?』
「…ああ、あれか。あれは、山崎君…分かるかい?山崎梓君と言って、僕の後輩なんだけれど。」

聞いたことある名前。知ってる名前。そう思った時だった。

『山崎梓…?…ああ、あの人で…、誰でしたっけ…?』

プツン、と、途切れた。糸が切れたかのように、“山崎梓”という名前の記憶に、フィルターが掛った。脳はその名前を認識しない。吉良さんは一瞬、眉間に皺を寄せた。しかし、瞬きをした合間に、先程と同じ表情に戻っていた。

「彼が、エレベーターに乗ろうとした時、中から血が溢れて来たといいだしてね。パニックになって叫びだしたのさ。話を聞く為にトイレで顔を洗わせたのだけれど、そこで昨夜怖い夢を見たと言われた。」
『…怖い夢…。』
「何でも、自分が箱の中に入っていて、その箱は血の海だったと。そこにポツンと一人、浮いていたそうだよ。奇妙な夢だと思っていたら、思い出して気分を悪くしたらしく、個室に籠った後また叫んでいたよ。病院に行かせるために、今日は早退させた。」
『…そうだったんですか。あ、でも、そんな話、誰かにも聞いた様な…。あ、私と同じ、受付嬢の子もそんなこと言ってたんです。福富枢っていうんですけど、なんかすごくうなされたと思ったら、声が聞こえたって。その子も、気分が優れなくて倒れそうだったから、早退したんですけど…。何だったんですかね?』

そうそう、その福富枢って、誰だっけ。…ああ、思い出せないや。

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