吉良吉影と受付嬢

それから、枢は早退許可をもらって、早退してしまった。帰り際に、枢が一言つぶやいた言葉が、頭について離れなかった。

『…声…か…。』



「最後に…、声が聞こえたの…。」
『声…?』
「「もういいかい」って聞こえたと思ったら…、別の人の声が聞こえて…「まだだよ」って…。目が覚めたら、いつもの自分の部屋で…、顔洗おうと思って洗面所行ったら、ものが落ちる音がして…、振り向いたら…、ゆ、夢と同じものが…、」

それから、枢は口元をハンカチで押さえたまま、ふらふらと会社を後にした。それから、いつも通り仕事をして、昼休みになった。他の受付嬢にその場を任せて、お昼の買い物に行こうと思い席を立った時。ポケットの中で携帯のバイブ音が響いた。見てみると、受信メールが一件。…吉良さんからだ!“会いたい”の四文字。顔文字も何もない。けれど、そのメールを見て顔が綻んだ。私も、吉良さんに会いたいと思っていた所だ。その気持ちをそのまま返信し、私はオーソンに向かった。オーソンに着いたころ、携帯がポケットの中で震えた。…吉良さんからの返信だと思い、携帯を開くと“昨日の公園で落ち合おう”と書かれていた。携帯を閉じて、オーソンでサラダスパゲティを買うと、指定通り、昨日の公園へ向かう。…まだ吉良さんは来ていないみたいだ。昨日と同じ木の下で、芝の上に腰を落とす。その時、どこからか声が聞こえた。

≪もういいかい≫
『…?』
≪もういいかい≫
『…ま、まだだよ…?』
≪…まだだね≫
『…う、うん…。』
≪まだまだ…まだまだ…?≫
『…あなたは、誰…?』
≪…あなた…、わたし、わたしはだれ?わたしはあなた。あなたはわたし≫

現れたのは黒い箱。目の前の芝生の上に、こつん、と落ちて転がった。…何、この箱…どこかで見た…気がする。

≪わたし、かくす。だれか、わたしみつける。それまで、わたしかくす。わたし、あなたまもる≫
『…何を言ってるの…?』
≪わたし、あなたのきおくかくした。わたし、あのふたりにあなたのきおくみつけさせた。わたし、あのふたりかくした。あなたわすれてしあわせになれる≫

そして声はこういったのだ。

≪わたしのなまえ、ハイドアンドシーク。あなたのためにかくれんぼする≫
『…ハイドアンドシーク…、』
≪わたしはあなた。だからわたし、あなたのみかた。いやなことあったら、あなた“もういいよ”いうまでかくす。≫
『…本当にかくれんぼするの?』
≪おには、あなたにいやなことしたひと。だから、いまもかくしてる。あんしん≫

そう言うと、箱は消えてしまった。私は、先程の会話を思い返した。私の記憶を隠したり、私に嫌な事をした人を鬼にして、隠している…。でも、嫌な事って何だっけ?そんなこと、誰にされたっけ…?考えても全然浮かばなかった。それどころか、なんだかとても充実した気分だ。

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