吉良吉影と受付嬢

これでは埒が明かない。一先ず彼は、病院に行かせるということで、僕の方から上司に掛け合って、家に帰した。そして、やっと面倒事から逃れることが出来たのだ。そして、真面目に勤務をし、時計は正午をさす頃。…昨晩、名字名前の手の事を考えていたせいか、無性にあの綺麗な手に触れたいと思い、僕は携帯を手に取った。メール画面を開き、名字名前のアドレスを選択。題名は書かずに、本文に“会いたい”とだけ書くと、送信ボタンを押した。それから、数分した後、携帯のランプが光っているのを見つけ、携帯を開くと案の定、名字名前からの返信が来ていた。

「…“私もそう思っていました”…か…。」

思わず顔がにやけてしまった。変な意味ではない。…いや、変な意味なのだろうか?ただ、あの“手”に触れれると思うと、とても嬉しい気持ちになるのだ。“昨日の公園で落ち合おう”とだけ打つと、再び送信ボタンを押し、財布と携帯を手に会社を後にした。



『あ、吉良さん!こんにちわ!』
「やあ。」

昨日と同じ木の下で、それぞれお昼ご飯を手に座ると、彼女は昨日の彼女とはまるで別人のようなきらきらとした笑顔を僕に向けた。

「今日はやけにご機嫌だが…、何かあったのかい?」
『…それが、私にもよくわからないんです!でも、何だかとても清々しい気分なんです。昨日、何かとても嫌なことがあった気がしたんですけど、そんなことどうでもいいって思うくらい、清々しい気分。ね、吉良さん、今日も“手”、触りますか?』
「…ああ。」

それから、それぞれの昼食を食べ、空いた時間は彼女の手を触らせてもらった。彼女自身は、もうこの行為になれたのか、ただ擽ったそうに僕を見ているだけだった。

「…あぁ、本当にいい手だよ、君は。君の手が欲しい…。」
『…あげますよ、私。吉良さんになら、この手、あげます。』
「………冗談さ。そんなことを言ったら、僕は本当に君の手を貰ってしまうよ。」

冗談なんかじゃあない、本気さ。今すぐキラークイーンで、君の腕以外を消し去りたかった。この手だけが手に入れば、いいのだ。しかし、今日の彼女の異常さが気になって仕方がない。だから、もう少し我慢してあげよう。

『…あ、そう言えば、今朝すごく騒ぎになってたんですけど、どうかしたんですか?』
「…ああ、あれか。あれは、山崎君…分かるかい?山崎梓君と言って、僕の後輩なんだけれど。」
『山崎梓…?…ああ、あの人で…、誰でしたっけ…?』

違和感。彼女は今、あの人ですね、と言おうとした。言う前に、彼女の元彼である山崎梓だ。すぐに分かるはずなのに、彼女の言葉が一端途切れたかと思うと、ケロッとした顔で、誰だと聞いてきた。…知らない振りをしているのか?

「彼が、エレベーターに乗ろうとした時、中から血が溢れて来たといいだしてね。パニックになって叫びだしたのさ。話を聞く為にトイレで顔を洗わせたのだけれど、そこで昨夜怖い夢を見たと言われた。」
『…怖い夢…。』
「何でも、自分が箱の中に入っていて、その箱は血の海だったと。そこにポツンと一人、浮いていたそうだよ。奇妙な夢だと思っていたら、思い出して気分を悪くしたらしく、個室に籠った後また叫んでいたよ。病院に行かせるために、今日は早退させた。」
『…そうだったんですか。あ、でも、そんな話、誰かにも聞いた様な…。あ、私と同じ、受付嬢の子もそんなこと言ってたんです。福富枢っていうんですけど、なんかすごくうなされたと思ったら、声が聞こえたって。その子も、気分が優れなくて倒れそうだったから、早退したんですけど…。何だったんですかね?』

名字名前は、終始笑顔で話していた。


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