吉良吉影と受付嬢

家に着いた私は、鞄をソファに置いてそのままお風呂場に向かった。ストッキングを脱いでゴミ箱に押し込んだ。スーツを脱ぎ捨ててお風呂にお湯を張って、冷蔵庫を漁る。何もない。けれど、もういい。何もなくていいの。

『馬鹿らしいけど…、もう何もいらない。』

ボーっと、キッチンの棚から包丁を手に取った。何でこれを握ったのかさえどうでもいい。ただ、なんとなくだ。

『ぜーんぶ、なくなっちゃえばいいのになー…。』

服も下着も脱ぎ去って、身体も洗わず浴槽に浸かる。ちゃぷんちゃぷんと水の音が響く。包丁を持った腕と、もう一方の腕を浴槽につけた。包丁の角を手首に沈める。そのまま横に引けば、ぱっくりと切れた手首。滲んだのは真っ赤な血。痛みなんて感じない。全ては虚しさに変っていった。何度も、何度も。何度も何度も何度も。包丁を突き立てては横に引いての繰り返し。見る見る内に浴槽のお湯が赤く染まった。

『…何、やってるんだろ…私…。せっかく綺麗に産んでもらった身体なのに…。』

そのまま瞼を閉じる。力を抜けば、包丁が浴槽に沈んで、ゴンッと音を立てた。

『このまま、だれにも見つからずに…、』







吉良吉廣は杜王町をさまよっていた。自らの持つ“矢”で、スタンド使いを増やすためだ。“矢”が導く方へ向かう中、吉良吉廣は一軒のアパートに辿り着いた。

「ここに、スタンド使いになる人間がおるのか…?」

矢はぐんぐんと一つの部屋の前に導いていく。吉良吉廣はドアポストを器用に通り抜けて、矢の導くままに部屋の中を進んでいく。どうやら、明かりのついたリビングには誰もいないようだ。矢は部屋の奥へ奥へと導いた。浴室だ。明かりがついている。しかし、全くと言っていいほど物音がしない。

「…風呂で、寝ておるのか?まあいい。行ってみるか。」

浴室に入った吉良吉廣は目を見開いた。女が一人、真っ赤に染まった浴槽で目を瞑っていた。

「な、なんじゃこれは…ッ!まるで血の海じゃ…!本当にこの女がスタンド使いになるのか…!?」

想像できるのは一つだけだった。女が自殺行為をしたということ。しかし、矢はどんどん女に近付いて行く。

「ええい、なるようになってみろ!」

吉良吉廣は、浴室で自殺未遂の為死にかけていた名字名前に、“矢”を刺した。

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