吉良吉影と受付嬢

今日の勤務も終わった。これから私は買い物をする為に、スーパーに寄らなくてはならない。更衣室で着替えた後、もう一度受付カウンターに行き、忘れ物がないかチェックした。…よし、忘れ物なし。



吉良吉影と受付嬢
 Part 5 スタンド



「名前、お疲れー!」
『あ、お疲れ枢。途中まで一緒に帰らない?』
「あー…、えっと、今日はちょっと寄るところあるから、ごめん…!」
『…そ、っか、うん。ごめんね、ありがと!じゃあ、お先に!』
「うん!」

枢と別れて会社を後にする。スーパーについて、野菜コーナーを見ていた時だった。見覚えのある…いや、二度と見たくない男が数メートル先にいた。…誰かと電話してるみたいで、こちらに気付いてないようだ。

「うん、分かってるってー!言われたもの買ってるから心配しないでよ、枢!」

…え?

「あとさ、俺シチューっていったらブロッコリー入れてほしいんだけど、いいかなー?…いい?!やったー、ありがとー!…うん、楽しみにしてる!」

ウソでしょ…?

「うん、俺もだーいすき!…え?はは!大丈夫だって、名前がいるわけないじゃん!」

何、言ってるの…?

「だって俺、アイツ嫌いだし。ね、ホントにメイド服着て待っててくれるの?…っへへへ、ちょー楽しみなんだもん。今夜は楽しもうぜ!」

気付いたら、スーパーを飛び出していた。どういうこと?待ってよ、どうしてあの人が、枢の事を呼び捨てにしてるの?だって、今朝まで、“枢ちゃん”って…。“大好き”って…、嘘だ、嘘だ、嘘だ!訳が分からない。頭の中がグルグルして気持ち悪い。

『…嘘、よ…、』

握りしめたバッグの紐がギリギリと鳴った。無我夢中で走っていた。でも、悲しいはずなのに涙が出なかった。

『あっ…!』

脚を挫いた。その拍子に躓いて、両手と両膝を擦り剥いてしまった。じんじんと痛みが広がる。けど、もうそんなのどうでもよかった。

『…ばっかみたい…。』

悔しかった。冷静になって考えてみれば、梓は私と付き合っていたころから、枢とも仲が良かった。枢がいれば、私の事をほったらかして、枢と楽しそうに話していた。

『なーんだ…。私、邪魔だったんだ…。』

頭の中で整理がついた。つまり、私は、梓の駒だったのか。枢との関係を結びつける為の駒…。

『ふふ…、ふふふ…、あー…、可笑しい。』

ゆっくりと立ち上がると、ストッキングが破れて、膝から血が出ているのが見えた。けれど、そんなのどうでもいい。フラフラと家に帰ることにした。

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