吉良吉影と受付嬢

「本当にいけない子だ…。」

吉良さんが私の手を撫でる度に、舌を這わせる度に、何か呟く度に…私の肩はびくびくと跳ねていた。怖い…。一体どうしたというのだ…。吉良さんはおかしい。先程、好きなものを好きだと正直に言える吉良さんは素敵だと言った自分を殴りたいと思った。

『っ、いやっ!!』

恐怖した私は、吉良さんを突き飛ばしていた。吉良さんは目を見開いて私を見ている。

『き、吉良さんの行動は、いきすぎてます!わ、私は…、ご自由にって言ったけど、こんな…、』

手が震える。

「すまない…、少々やり過ぎたな…。」
『ぁ…、こ、こちらこそ、突き飛ばしてごめんなさい…!怪我してませんか?』
「平気だよ…。」

素直に謝った吉良さんに、自分もやり過ぎたと思った。けど、先程の恐怖は、私の胸に靄を残した。

「こんなことを言って失礼だとは思っているんだが、…また名字さんの手を触らせて貰ってもいいかな?」

…何を、言ってるの…?そんなに、私の手を触りたいの…?とか、自意識過剰かもしれないけど、そんな事を思ってしまった。…のに、

『ぁ…の、自重していただけるなら…、』

私も、オカしいのかもしれない…。

『また、いつでも…どうぞ…。』

吉良さんは一瞬固まった後、妖しく笑った。






その後、また会社に戻ると、枢は口を尖らせながら遅いと言った。

『ご、ごめん…!あ、でもね、枢が食べたがってたサンドイッチ、お土産にって言うとちょっとおかしいけど、買ってきたよ!』

そう言って、少々冷めてしまったサンドイッチの袋を渡そうとした。が、既に枢の手元には、私が持っているものと同じ、サンジェルマンのサンドイッチの袋があった。

『あ、れ…?』
「…あ、こ、これは…、」
『あ、もしかして、誰かに先に頼んじゃってた?』
「そ、そうなんだ!だから、ごめん、ね!わざわざありがとう…!」
『ううん、私こそ、余計な事しちゃったね…!ごめん!』

持っていた紙袋を自分のデスクの隅に押しやった。

「じゃ、じゃあ、私も休憩行ってくるね…!」
『あ、うん、ごゆっくりどうぞ…!』

枢は紙袋を手に、いそいそとロビーを後にした。

『…はぁ。』

仕方がないので今日の晩御飯もサンドイッチにしよう。

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