死神13
花京院春乃妹は、眠れない夜を過ごしていた。
『…はぁ…、』
「…すー…すー…、」
隣で眠る兄を見れば、時折眉を顰めながらもぐっすりと眠っているようだ。月明かりが射しこむホテルの部屋。春乃妹はベッドの上で膝を抱えた。さらりと流れた黒髪が、月明かりに反射してキラキラと光る。触れた唇は柔らかい。承太郎とキスをした時の事を思い出して、顔がカァッと一気に熱くなった。
「んーぅ…、」
『!』
花京院がごろりと寝返りをうった。それに驚いて顔の熱が引く。…大丈夫、ぐっすり眠っているようだ。
『…はぁ…、』
溜め息ばかりが漏れた。こんな時に、いつも涙の壺が出て来ては、春乃妹を慰めようと頬を撫でる。
『…あなたは、今どんな気持ち?』
涙の壺は首を傾げる。
『…私、悲しい気持ち…。でも、涙が出ないの…。どうすればいい?』
涙の壺は壺を抱えたまま俯いてしまった。
『…あなたも同じ気持ち…?』
≪…、≫
涙の壺が俯く。
『承太郎…、』
承太郎の事を考えると、とても嬉しい気持ちになる。自然と口元が上がり、自分が笑っていることに気付くのだ。しかし、今日は何だか、そんな気持ちにはなれなかった。
『…私、どうすれば…、』
ベッドに倒れ込んだ。次に目を開ける時、独りでに涙が溜まっていればいいのに、と思いながら。
次の日、夢も見ないほど深い眠りから目を覚ました春乃妹。外はまだ薄暗い。寝てる間に汗を掻いたのか、肌がべたついて気持ちが悪かった。シャワーを浴びようと、まだ眠っている花京院を起こさないように、静かにシャワー室に消えた。
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涙の壺