戦慄の侵入者の巻

ボッゴォーン、と音がした。春乃妹はまたも肩を跳ねさせる。先程の音は医務室の奥からだったが、今の音は自分の横だ。視線を横に向けると、医務室の壁が瓦礫と化していた。パラパラと砂ぼこりが舞う。耳を澄ませる。…自分の名を呼ぶ声はなかった。

『…お兄ちゃん…!』

春乃妹は立ち上がった。瓦礫の山を登り、医務室に足を踏み入れた。

「…ん?てめーは確か…、」
『お兄ちゃん!!』

立っていたのは空条承太郎。兄が殺すと意気込んでいた男。その承太郎の肩に、ぐったりと担がれた人物…。春乃妹の脳裏にいやな考えが浮かぶ。

『…そんな…、』
「…おいおい、何か勘違いしちゃあいねぇか?」

春乃妹はオロオロとあたりを見回す。すぐ傍に、花京院の通学鞄を見つけた。それを掴み、中から護身用の小型ナイフを取り出し、承太郎に突き付けた。

「…やれやれだぜ。」
『…お兄ちゃんを返して…!』

ぽろぽろと溢れた涙に、すかさず現れた涙の壺。それを見た承太郎は目を見張るも、静かにスタープラチナを構える。春乃妹はそれに肩を跳ねさせ、涙の壺は春乃妹を慰めるかのように、涙を溜めながらその薄い桃色の頬を撫でた。

「女を殴るのは気が引けるが、てめーがその気なら…、相手になるぜ。…だが、その前に誤解を解きてぇ。…こいつは気を失ってるだけだ。安心しな。」
『……本当…?』
「…ああ。」
『…お兄ちゃん!』

春乃妹は持っていたナイフを捨て、鞄を手に承太郎へ駆け寄った。そして、その肩に担がれた自分の兄の顔を覗く。どうやら、承太郎が言っていることは事実のようだ。承太郎はスタープラチナで春乃妹の様子をよく観察するが、どうやら兄の無事な姿に心底安心しているようだ。涙の壺も、心なしか安心したと肩を落としている。

「こいつにはDIOについていろいろ喋ってもらわなくてはな…。てめーも、何か知ってる事は教えてくれ。」
『…DIO様…?』

ああ。とだけ言うと、承太郎は花京院を抱えたまま学校を後にする。春乃妹も、そんな承太郎は悪い奴ではないのでは?と思い、その後を追った。

[ 5/134 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

涙の壺



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -