戦慄の侵入者の巻

承太郎よりも先に学校に着いた花京院と春乃妹。二人は校門をくぐると、一直線に医務室へ向かう。そして、開いていた窓の外で息を殺して待った。

「JOJO!まさか、またケンカしたんじゃないでしょうね!」

数分後、承太郎が医務室にやってきた。花京院は法皇の緑を出し、その身体を紐状にすると、保険医の足元に忍ばせた。承太郎はまだその事に気付いていない。

「いいかい、春乃妹。」
『…?』
「今、保険医の身体に法皇の緑をとりつかせた。これから私が、空条承太郎と戦うことになるだろうけど、私が呼ぶまで、何があっても姿は見せちゃいけないよ。」
『…お兄ちゃんは…?一人…?』
「ああ。春乃妹の涙の壺は、戦闘に向いていないからね。ここは私と法皇の緑に任せて、身を隠すんだ。…いい子だから、ね?」
『…はい…。』

花京院は、まるで小さな子供に言い聞かせるように、優しく春乃妹の頭を撫でて囁いた。医務室では、保険医が突然豹変し、承太郎の頬に万年筆を突き刺していた。

「それじゃあ、行って来るよ。」
『…気を付けて、お兄ちゃん。』
「ああ。」

花京院は、開いていた窓から軽やかに、枠に飛び乗った。





春乃妹は花京院の背中を見ていた。ただ、ぼぅっと見ていた。中から大きな物音がした。驚いて肩が跳ねるが、自分の兄は何ともないようだ。安心したのか、少し息を吐きだした。そして、その場に小さく縮こまる。

『…お兄ちゃん…、』

DIOと出会ってから、兄は変わってしまった。春乃妹にはその理由は分からないが、それは肉の芽が原因だった。DIOに出会った日。それは両親と四人で、エジプトに家族旅行に行った日の事だ。馴れない地で、時差ボケもあったせいか体は疲れていても眠れなかった春乃妹。優しい花京院はそんな春乃妹が眠くなるまで、と、一緒にエジプトの空を眺めていた。日本では見られないような綺麗な夜空に満点の星。二人はそれに見入っていた。しかし、ふいに二人の視界に入った一人の男。派手な黄色い衣装に身を包み、煌めく金髪を靡かせて、その男は歩いていた。そう、それは…、

『DIO様…、』

春乃妹は自分の身体を抱きしめた。震えていた。DIOは、恐ろしい男だった。二人がその姿に見とれていた時、視線に気付いたのか、DIOは二人のいる窓を見上げた。…目があった。と、同時に、二人に途轍もない緊張が襲う。何かに圧迫されたように胸が苦しくなった。息も上がり、くらくらする。春乃妹は恐怖に涙し、花京院は思わず法皇の緑を出した。そして、春乃妹の涙を集める為に、涙の壺も出てきた。DIOは二人のスタンドを見て微かに目を見開いたが、やがて不敵に笑った。花京院は思わず嘔吐し、春乃妹は呼吸が乱れて過呼吸になっていた。気が付けば目の前にDIOがいた。何か言っている。自分の上がる息の音で、あまり聞き取れなかった。花京院が春乃妹を見た。微かに耳に入った。

『友達…。』

二人は頷いた。春乃妹は無意識だった。その後、春乃妹は気を失い、花京院はDIOに肉の芽を植え付けられた。しかし、春乃妹には肉の芽は植え付けられなかった。


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涙の壺



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