運命の車輪
「また飛ばしてくるぞッ、見えんッ!」
「奥へ逃げろッ!!」
再び放たれた攻撃に、一行は走りだした。しかし、
「あっ!」
家出少女がつまずいて転んでしまった。
「だっ!誰もあたしを連れてってくれないッ!どーせあたしは家出少女よッ!」
『早く、立って…!』
「春乃妹!」
つまずいた家出少女の腕を引き、立たせようとした春乃妹。そこへ、
「まずは二人ィッ!」
「春乃妹ッ!」
『ッ!』
容赦なく放たれた攻撃に、春乃妹は家出少女を庇い立ちふさがった。
『ぅあっ!』
左肩、右足の太股がえぐられ、血が噴き出した。蹲る春乃妹。
「やれやれ、それだけしゃべくってる暇があるんなら逃げろよな、このガキが!おかげて春乃妹が怪我したんだぜ!」
「あっ!わーん!承太郎大好き!」
あんまりだ。家出少女を庇ったのにも拘らず、お礼もなしに承太郎に助けられた家出少女を見て、春乃妹はショックを受けた。それに、家出少女の発言に、胸がもやもやとした。
「春乃妹!上だ、岩をのぼるんだ。」
『…ッ、』
花京院の声に上を見上げる春乃妹。しかし、負傷した肩は痛みで上がらず、脚も、春乃妹には立つのが精一杯だった。
「法皇の緑ッ!春乃妹を持ち上げるんだッ!」
花京院の手助けにより、何とか崖の上に登りついた春乃妹。法皇の緑が抱えてきた春乃妹を地面に降ろした。駆け寄った花京院。
「あぁ…!春乃妹の綺麗な身体に傷が…!すぐに涙の壺で治療するんだ春乃妹!痕が残ったら……!」
『…平気…。お兄ちゃん、落ち着いて…?』
「落ち付いていられないよ!」
「花京院、今はそれどころじゃあないぜ。」
承太郎は崖の下の車を覗き込んだ。それにつられてみると、運命の車輪のタイヤにスパイクが出ていた。硬い音を立てて岩を登ってくる。
「やれやれだ。やり合うしかなさそうだな。みんなさがってろ。」
皆を庇うように立ち塞がった承太郎。その背中は逞しく、春乃妹は心臓がキュッと持ちあがる。
「やつはここに登り上がる時…、車のハラをみせる。そこでひとつ、やつとパワー比べをしてやるぜ。」
そこで、ふと春乃妹は気付いた。…何か臭う…。血の臭いかと思い、肩の傷口にそっと触れた。指先についた血の臭いを嗅ぐと、鉄臭い臭いと一緒に、また別の臭いがした。
『…これ…まさか…、』
運命の車輪が迫る。承太郎が雄叫びを上げ、スタープラチナが歯を食いしばる。堅く握られた拳が、崖を上ってきた運命の車輪に向けて放たれようとした。
『まっ、』
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涙の壺