女帝
女がポルナレフの腰にしがみ付いた。
「ホル・ホース様!私には事情はよく分かりませぬが、あなたの身をいつも案じておりまする!それが私の生きがい!お逃げください!早く!」
「こ…、このアマあ!はなせ!なに考えてんだあ!」
そうこうしている内に、ホル・ホースはどこに隠していたのか、馬にまたがり逃亡した。
「野郎!待ちやがれッ!」
「ああ…、うう、」
ホル・ホースを追いかけようとしたポルナレフ。女はそれに引きずられ、肘を擦り剥いて出血した。
「こ…、このアマあッ!」
「ポルナレフ、その女性も利用されている一人にすぎん!それに奴は、もう闘う意思はなかった。攻撃してこないのに、我々に追うことは今はできない。ヤツにかまっている暇はない。」
ジョセフはそう言うと、女の腕に布を巻いた。その際に、ジョセフの腕に女の血が付着したのを見た者はいなかった。
「さあ!エジプトへの旅を再開しようぜ。いいか!DIOを倒すにはよ、みんなの心をひとつにするんだぜ。一人でも勝手なことをするとよ、やつらはそこにつけ込んでくるからよ。いいなッ!先を急ごうぜッ!」
ポルナレフは先頭をきって歩いて行く。一行はその後ろを着いて行くが、ジョセフは腕が痒いのかしきりに腕を掻いていた。
「チュミミン、」
「?」
『…おじ様?』
「春乃妹ちゃん、今何か言ったか?」
『…言ってない…。』
「じゃあポルナレフか?ポルナレフ、何か言ったか?」
「ン、別に何も言ってないぜ…。ハエの羽音じゃねーか!ハエが多いぜ、この辺はよ。」
「たしかに。」
そこでジョセフはあることに気付いた。
「多いのはハエだけじゃないぞ。いつの間にか虫に腕をくわれちまったらしい。」
「かかないほうがいいですよ。」
『…涙の壺…、』
壺を抱えて現れた涙の壺。
『…おじ様、見せて…?』
「ん?ああ、平気じゃこんくらい。唾つけときゃあ治る!それより、アヴドゥルの傷を治してくれたそうじゃが、まだ壺の中身はあるのかね?」
『……見せて…。』
壺の蓋を外して中を覗くと、壺にはあと半分ほどの涙が残っていた。
『…これ、傷は塞げるけど、流れた血液が戻ってきたりは、しないみたい…。』
「…春乃妹?大丈夫かい?顔色が優れないみたいだが…。」
『…初めて、あんなに走ったの…。…疲れた…。あと、喋りすぎて…。』
「なるほど…。ジョースターさん、次の町まではどうやって移動するんです?」
「うむ、次は聖地ベナレスという所じゃな。移動手段はこの調子だと、バスに乗るしかないな。春乃妹ちゃんはバスに乗ったら寝ておくといい。少しは疲れがとれるじゃろう。」
『…はい…。』
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涙の壺