皇帝と吊られた男

春乃妹は急いで、来た道を戻っていく。履いていたサンダルと不安定な地面に、何度も足をとられそうになったが、そんなことを気にしている暇などない。

『…はぁ、…ど、こ…?』

息が切れてきた。春乃妹は立ち止まり、息を整えながら周りを見渡す。どれぐらい走ったのだろうか。周りには全く見覚えのない店や民家が並んでいる。承太郎達と別れた喫茶店は、とっくに過ぎていた。特にあてもないまま、春乃妹は勘を頼りに再び走り出した。そして、春乃妹が角を曲がろうとした時だ。

『きゃ…っ!』
「…てめーは…、」
「ん?どうした、承太郎。」

角から出てきた人物とぶつかった春乃妹。ぶつかった相手は承太郎だった。その場に尻もちをついた春乃妹に、承太郎は手を差し伸べる。

「なんじゃ、春乃妹ちゃんじゃあないか!こんなところで何をしてる?」

承太郎に差し伸べられた手をとった春乃妹。承太郎がその手を引くと、軽い春乃妹は勢い余って承太郎の胸に飛び込む形になった。それに驚いた春乃妹の顔が真っ赤に染まり、すぐに下を向いてしまった。

『…ぁ、あ、ありがとう…、承太郎…。』
「…ああ。」
「花京院とアヴドゥルはどうした?」
『あ…、こっち…!』

春乃妹は自分が来た道へ振り向くと、承太郎の手を引いて走り出した。

「…なんじゃ?若いのォ!」

ジョセフも後を追いかけた。春乃妹に手を引かれて辿り着いた先には、アヴドゥルが倒れていた。

「な、なんてこった…!おい、アヴドゥル!」
『…あの…、私…、涙の壺で…傷だけは治せたの…。』

息を整えながら春乃妹はそう言った。承太郎はスタープラチナでアヴドゥルの脈を測る。

「…微かに脈があるぜ。すぐに病院に運ぶぞ。」
『…よかった…。』

春乃妹は安心したのか、足の力が抜けてその場に座り込んだ。

「春乃妹ちゃん、君のおかげじゃ。ありがとう。」
『…私…、ふっ…、良かった…。』

春乃妹の目からぽろぽろと涙が零れ落ちた。

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涙の壺



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