黄の節制

「よお、承太郎。そのチェリー食うのかい?食わないならくれよ。腹が空いてしょーがねーぜ!」

四人は、ケーブルカー乗り場に来ていた。ココナッツジュースを飲み終えた後、近くでソフトクリームを買い、景色を眺めながら食べることに。春乃妹は未だに花京院に近付こうとせず、ずっと少女の隣を歩いた。花京院も承太郎も、そのことに何も言わなかったが、春乃妹は何を思ったか少女の手をガッチリと掴み、震えながらここまで来ていた。承太郎は、花京院に言われた通りチェリーを差し出す。すると、花京院は突然、承太郎の背を押した。承太郎は驚いて反応が遅れたため、柵から落ちそうになった。それを間一髪止めたのは、少女と春乃妹。慌てて承太郎の腕を掴む。それを見て、花京院は笑っていた。そして、舌に乗せたチェリーを転がす。

「レロレロレロレロ、」
『………、』

承太郎が体勢を取り直した時、春乃妹が花京院の元に近付いた。そして、震えながらも右手を掲げ、そのまま花京院の頬にビンタした。

「……、」

ぺチン、と皮膚を叩く音がして、花京院の舌からチェリーが落ちる。

『お兄ちゃん、いい加減にしてッ!』

春乃妹は初めて人に怒鳴った。花京院は叩かれた頬を押さえながら、冷たい目で春乃妹を見つめる。

「…痛いじゃないか、春乃妹…。」
『…ッ、…お兄ちゃんは、冗談であんなことする人じゃないわ…!』
「…春乃妹、あんたまさか、冗談も通じねぇ、コチコチのクソ石頭の持ち主だったのか〜〜〜?」
『…お兄ちゃんは、私に冗談は言わない…。』

そう言って、春乃妹は花京院に背を向けた。震えるその瞳には、涙が浮かんでいた。




待っていたケーブルカーが到着し、承太郎は花京院に声を掛ける。

「乗れや、花京院。」

花京院はジッと承太郎を見ている。

「ケーブルカーが来たぜ、乗れといってるんだ。このおれの切符でな。なにかにとりつかれているてめーは、この拳でブッ飛んで乗りな、ということだ。」
「!」
「オラッ、」

承太郎は、花京院を殴った。花京院の口が裂けて、血が吹き出た。

『ッ!!』
「なにッ!?!?」

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涙の壺



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