悪魔

1205号室では、承太郎と花京院がソファに座ってコーヒーを味わっていた。カップとソーサがこすれ合う音がする。花京院は、チラリと承太郎を見た。

「…承太郎、」
「…なんだ…。」
「…こういうのを聞くのは何だけど、好きな女性とか…、いないのかい?」
「…いきなり何だ…。」
「…気になっただけさ。世間一体で言う恋バナってやつだよ。」
「……やれやれだぜ…。花京院、てめーそんな話に興味があるのか?」
「…いや、なんとなく…ね。」
「……俺はいねー。てめーはどうだ、花京院。」
「…そうだね、僕も今はいないよ。」
「…そうか。」
「…ああ。」

空になったコーヒーカップを机に置いた花京院。

「でも、」
「…なんだ。」
「春乃妹は、どうなのかな…。」
「…あ?」
「…いや、僕は春乃妹みたいな女性が理想なんだ。おしとやかで、品があって、表情一つ一つが愛おしい。そして何より、護りたくなる。でも、承太郎のお母さん…ホリィさんみたいな、元気で笑顔の温かな人も、悪くはない…。」
「…、」
「承太郎は?好きな女性の理想とか、ないのかい?」
「…さぁな。」
「…、」
「だが…、…てめーの言った理想も、悪くはねー…。」
「…春乃妹はあげないよ。」
「…何でそうなる。」

くすり、と花京院は嗤った。承太郎は帽子を伏せて、やれやれだぜ、と呟いた。

「春乃妹を助けてくれてありがとう、承太郎。」
「……ああ。」
「春乃妹がもし、…もし!本当にもし、お嫁に行くとするなら、」
「何で“もし”を強調する…。」
「や、なんとなく。でも、もし、春乃妹が誰かに嫁ぐなら、……僕は承太郎のところに嫁いでほしいな。」
「……何言いだすんだ、てめー花京院。」
「照れるなよ、承太郎。これは僕の理想なんだから。でも、承太郎…、」
「…今度は何だ。」
「…もし、僕の身に何か起こったら、その時は春乃妹を【トゥルルルルルン】…いや、なんでもない。僕が出るよ。」

ガチャリ、と受話器が取られた。

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