奇虫襲撃!の巻
法皇の緑が倒した灰の塔の本体は、先程花京院が当て身をした老人だった。法皇の緑によって絞め千切られた、灰の塔。
「さっきのじじいが本体だったのか。フン、おぞましいスタンドには、おぞましい本体がついているものよ。」
『…お兄ちゃん…、』
「春乃妹、怪我はないかい?」
花京院に駆け寄った春乃妹。花京院は優しく春乃妹の頭を撫でた。
『…平気…。でも、お兄ちゃんと承太郎が…、』
そう言った春乃妹の横から、不意に現れた涙の壺。
『あ…、』
フラフラと、重たそうに抱えられた壺。涙の壺は、花京院の前に飛んでくると、自らの口をパクパクと開けて見せた。
「何か、話そうとしているのか?」
「…もしかして、口を開けろと言ってるのでは?」
「口…?」
大人しく口を開いた花京院。涙の壺は、花京院の唇に掴まり、そっと壺を傾けた。ポタリ、と一滴落ちた涙に、今度は負傷した舌先を撫でる。
「な!?」
見る見る内に血が止まり、切れていた舌は徐々に塞がっていく。
「もしかして、溜めた涙は治癒能力を持つのか!?」
『こんなこと…、出来たんだ…。』
「テメーも知らなかったのか…?」
『初めて見たの…。こんなこと出来たなんて…。』
これで良しとでも言うかのように額を拭う仕草をした涙の壺は、次に承太郎の左手に掴まった。そして、先程と同じように涙を一滴落として、傷口を撫でる。
「傷が塞がった…!」
「素晴らしい能力じゃ!」
承太郎の傷も治してしまうと、涙の壺は消えた。
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涙の壺