夏の思い出

「春乃妹−?」
『しーっ…。』

花京院家のとある部屋の押し入れの奥。兄、花京院典明の声が聞こえ、自分の口の前でそっと人差し指を立てた春乃妹。両親は、五歳の二人を家に留守番させ、買い物に出かけている。ガチャリとドアが開く音がした。パタパタと走りまわる足音。春乃妹はジッと動かずに息を顰める。二人はかくれんぼの真っ最中だ。

「春乃妹−??おかしいなぁ…。他の部屋も探したから、あとはこの部屋だけなんだけど…。」
『…ふふ、』
「ん?」

半ベソをかいた花京院。それを聞いて思わず笑みが零れた春乃妹。微かな笑い声を捉えた花京院は、どこだい春乃妹?と部屋を見渡す。二つ並んだ押し入れの右側をゆっくりと開けてみる。中には衣装ケースが積まれていた。衣装ケースに入っているのは両親の衣服。ここは両親の寝室である。

「こっちかい?」

開けた押し入れとは逆のふすまを開けてみる。中には積まれた冬用の毛布や羽毛布団の山。そっとふすまを閉めた花京院。しかし、数秒考えた後、花京院はもう一度目の前のふすまを開けた。そして、毛布と羽毛布団の間にそっと手を差し込むと、勢いよく布団を捲り上げた。

「みーつけた!」
『ふぁ!えへへ…見つかっちゃった…!』

詰まれた布団の隙間に挟まっていた綺麗な黒髪。春乃妹は布団の間に潜りこんでいた。もぞもぞと布団の間から這い出てきた春乃妹。かなり暑かったのか、綺麗に切り揃えられた前髪や、普段はサラサラ流れる黒髪は汗に濡れ、春乃妹の白い肌に張り付いていた。

「汗びっしょりだね…、大丈夫かい?」
『暑かったの!』
「うん、暑そう!ははは!」

えへへ、ははは、と笑い合った二人は、一先ず喉を潤すべくキッチンへ向かった。食器棚の一番下、二人の手の届く位置に置かれた色違いのコップを掴んだ春乃妹。花京院は冷蔵庫に冷やされた麦茶の入ったボトルを取り出す。

「春乃妹、」
『はい!』

春乃妹はテーブルにコップを置き、花京院が麦茶を注ぐ。まだー?、もうちょっと!、など口にしながら、注がれていく麦茶を見つめる二人。

「よし、飲もう!」
『いただきます!』
「いただきまーす。」

落とさないようにと両手でコップを掴み、二人はキンキンに冷えた麦茶を一気に飲み干した。

『ちゅめたーい!!!』
「ああー…、」

食堂を通る冷たい麦茶に二人は眉を顰める。ふぅ、と一息ついた二人。麦茶のボトルを冷蔵庫に戻し、コップを洗って片づける。

「よし、次は何しようか?」
『何しようか?』

うーんうーん、と頭を抱える二人。そんな時だった。

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