眠り姫
「あなた達が探してるDIO…、ディオ・ブランドーには、一人の妹がいたの。その妹の名前はマリア・ブランドー。その子はね、父親から受けた暴力で、視力を失ってしまった。」
女は話し始める。それは、彼女の記憶だった。愛すべき兄と、その兄が嫌って憎んでいた男で、自分の初恋の相手である、ジョナサン・ジョースター。そして、そのジョナサンには愛すべき女性、エリナ・ペンドルトンがいた。女は知っていることを全て、春乃妹に話していく。
「マリアはね、今から100年くらい前に、海で眠り続けた人なの。」
『海で…?』
「そう。自分用の棺を作らせて、愛する兄を見立てた薔薇を一輪持って、自ら眠ることを選んだ。」
『…、』
「でもね、死んではいないのよ。吸血鬼になって、永遠を強いられてしまった。でも、死ぬのが怖かったの。死ぬくらいなら、兄を想って眠り続けた方がマシ。そう思って、自ら眠った。彼女はきっと、兄を一人の男として見ていたのかもしれないわ。」
そして、マリア・ブランドーは深い深海に沈んでもなお、兄を想い続け、そして…、
「彼女は不思議な力を身に付けた。」
棺の中で、マリアは誰かに抱きしめられている感覚に気付く。それは昔、母親に抱きしめられていた時の感覚に似ていた。棺の中でマリアは涙を流した。そして、兄を想い、会いたいという思いが強くなった。そして、気がつくと彼女は100年近く眠っており…。
「その棺を引き揚げたのがね、彼女の兄、DIO…。」
『DIO…、』
「彼にはスタンド能力が目覚めていたの。そして、それでマリアの場所を探り当てたのね。棺を壊して、中で眠っていたマリアを抱きしめて泣いた。」
今まで自分を優しく抱きしめていた感覚とは違い、きつく自分を抱きしめる感覚にマリアは目を覚ました。目を開けると、整った顔立ちからは想像できない位に顔を歪めて涙を流す男が一人。彼女は直感で、彼が誰なのかわかった。二人は再会に涙を流し、きつく抱き合った。
「二人は、兄妹の壁を越えてしまった。…石仮面をかぶって吸血鬼になったから、人間としての兄弟という枷は無くなったの。だから、二人は愛し合った。」
そして、男はマリアに話し始める。
「≪わたしはジョナサンの身体を乗っ取って、棺の中で眠っていた。≫…不思議でしょう?兄妹とも同じことをして眠っていたのよ?…でもね、マリアは悲しくて泣いたの。」
自分の初恋相手だったジョナサンの身体を乗っ取ったDIO。自分の兄であった男と、初恋相手だった男が今、一つの身体になって自分の目の前にいる。マリアはジョナサンとエリナの仲を知っていたため、DIOから聞いた話に涙したのだ。そしてマリアは一つの身体になった二人を愛した。平等に愛した。DIOはそれをよしとしなかったが、マリアが悲しむことを嫌ったDIOは、何も言わなかった。
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涙の壺