「アヌビス神」

承太郎達が回路に向けて川を下っている頃。春乃妹はDIOの館で震えていた。未だに目が見えることはない。もう日が沈んだのか、あるいは既に夜で、もう日が明けるのか…それすらもわからない恐怖に震え続けていた。そんな時だ。ガチャ、と鍵が開けられ、誰かが中に入ってきた。春乃妹は縮こまる。足音が近付いてきて、春乃妹の前で止まった。

「そんなに怖がらないで?」
『…誰…?』
「私は…そうね、眠り姫。」
『眠り姫…?』
「あなたが春乃妹さん?」
『…はい…。』
「…なるほど…、あの人が気に入る理由がわかったわ。あなた、昔の私にそっくり…。」
『?』
「あら、ごめんなさい。あなた、今視力を奪われていたのね。はずしてあげるわ。」

そういうと、眠り姫と名乗る女は、春乃妹の閉じられた瞼に手のひらを乗せた。

「“女神の頬笑み”」

女が手を放すと、春乃妹の瞼がゆっくりと持ち上がる。春乃妹のぼやける視界に、一人の綺麗なブロンドの女が自身のスタンドと思われる人型を背にほほ笑んでいた。そのスタンドは純白のドレスに白いレースを纏っている。まるでウェデングドレスを着た花嫁のようだった。春乃妹はその美しさにうっとりと頬を染めた。

「改めまして、私は眠り姫。よろしくね、春乃妹さん。」
『…はい…、』
「それじゃあ、まずは着替えましょうか。シャワー、入りたいでしょう?」
『…、』

春乃妹は頷く。女は優しく春乃妹の頭を撫でた。

「大丈夫。私はあなたの味方よ…。」

女はふんわりと笑った。それから、春乃妹は女の部屋へ連れてこられた。

「こっちがバスルーム。使い方はわかるかしら?あと、これがシャンプーと、これがトリートメント、これが、」
『あの、』
「?なあに?」
『…眠り姫さんは…、どうして私がここにいるか…知ってるの…?』
「…知ってるわ。連れてきた人物も、それを命令した人物も。…でも安心して、私はその人たちの仲間ではあるけど、あなたの見方よ。…って、もっと信用ないわね…。ごめんなさい。でも、私はあなたをどうこうしようっていう訳ではない事はわかってほしいわ…。さ、着替えは私が準備しておくから、ゆっくり疲れを癒してらっしゃい!」

春乃妹は女に背中を押され、バスルームへ消えた。

「…本当に、昔の私にそっくり…。」

女は少し悲しそうに笑った。

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涙の壺



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