「クヌム神」のオインゴと「トト神」のボインゴ

スペアのタイヤに交換し終わったジョセフとポルナレフが、車から落ちてしまった荷物を掻き積め、寝ていたアヴドゥルを車に乗せると、春乃妹の元にやってきた。

「春乃妹、花京院を車に乗せるぜ!」
「トロイ、お前も乗るんだ。」
「はーいはい。」
「春乃妹ちゃんも乗ってくれ、承太郎を迎えに行くぞ。」
『…はい、』

ポルナレフが花京院の肩を持ち、ジョセフがそれを支えながら車に向かう。春乃妹とトロイはその後をついて車に乗り込んだ。

「よし、承太郎を迎えに出発ッ!」

ポルナレフがアクセルを踏んだ。




承太郎とイギーと無事に合流できた一行は、ようやっと砂漠を抜けだして公道を走っていた。未だに気を失っている花京院と、眠っているアヴドゥルを病院に連れていかなくてはならない。しかし、横転したバスとひしゃげたトラックが、一行の行く手を塞いでいた。その後、なんとかアスワンまで到着した一行。急いで二人を医者に見せ、残った一行は町をぶらぶら歩いていた。

「アヴドゥルの首のキズは、幸運にも急所をはずれていたうえに、春乃妹ちゃんの治療もあって、明日にでも退院できるらしい。が、花京院は重症だ。失明するかもしれん。」
「心配だぜ。」
『…、』
「残念だが…、この旅…。花京院はリタイヤせざるをえないかもな…。」
『…!』

春乃妹は立ち止まってしまった。

「おい、たくさんカフェがあるぞ。ひさしぶりの町だ…。なんか飲み物でも飲みながら休もう。」
「いいな…、どの店にする?」

ポルナレフがくわえていたタバコを弾いた。トロイは春乃妹が立ち止まったことに気付き、振り返る。

『…、』
「春乃妹ちゃん、早く行かないとおいてかれちゃうぜ?」
『…先に、行っててください…。』

トロイは肩を竦めると、スタスタと三人の後を追った。春乃妹は逃げ出したい気持ちになった。何もかも放り出し自由になりたい気分だった。しかし、そんな事をする度胸もなければ行動力もない。目の前を歩く皆について行くのに必死なのだ。

『…私に出来る事って…、なんだろう…。』

ただ涙を流して傷を癒す。それの繰り返しで、自分は成長できるのだろうか。いいや違う。春乃妹は頭を振った。成長できるのか、ではない。成長しなくてはならないのだ。まずは強くならなくてはならない。

『涙の壺…、』

名前を呼ぶと、すぐさま春乃妹に寄り添うように姿を現した涙の壺。自分だけでは何もできない。…とすれば、自分のスタンドである彼女にも、協力してもらわなければならない。涙の壺はパクパクと口を動かした。

【ワラッテ】

春乃妹はクス、と小さく笑みをこぼした。そう、まずは変わらなくてはならない。ただ泣くだけではない。笑うのだ。喜怒哀楽を知るのだ。私にもできる事、みんなを励ます事、みんなを癒す事、みんなを護ること!春乃妹は承太郎の元へ走り出した。

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涙の壺



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