「愚者」のイギーと「ゲブ神」のンドゥール

春乃妹は花京院の頭を優しく抱えると、スカートが汚れるのも気にせず膝枕をした。すかさずジョセフとポルナレフが駆け寄った。

『おじ様…、消毒液とか…、』
「お、おぉ、さっきSPW財団に貰った荷物に…、」

ジョセフは荷物を取りに車の元に走って行った。ポルナレフはオロオロと花京院を窺う。春乃妹は発狂したい気分だった。人命第一と考えたものの、本当に花京院が失明してしまったら…、と考えるだけで胸を鷲掴みされる思いだった。ジョセフが鞄を手に戻ってきた。中を漁ってみるが、救急用具が見当たらない。

「う…うむ、やむおえん。確か酒があったはずじゃ…!」
「アルコール消毒か!」
「消毒しないよりはましだろう!」

鞄の中から漁り出されたのはウィスキー。春乃妹はウィスキーを受け取ると、花京院の瞳が完全に閉じられているのを確認した。幸い、花京院は気を失っているため、動きはしないだろう。ゆっくりと傷口にウィスキーを垂らした。

「…ッぐ…ッ、」

痛みに声を漏らす花京院。身体を捩らせて痛みに耐えていた。両目の傷にウィスキーを垂らした後、清潔なハンカチを鞄から漁り出し、花京院の傷口に当てて包帯を巻いた。応急処置は済んだ。あとは承太郎が戻ってくるのを待つだけだ…。






「春乃妹ちゃ〜ん!」
『!』

花京院を膝に乗せたまま、承太郎が走り去った方をじっと見つめていた春乃妹。突然トロイが肩に手を添えてきたため、驚いて肩が跳ねる。

「春乃妹ちゃんのお兄ちゃんは大丈夫なのかい?いやぁ〜無事そうでなによりだねー、ほんと。」
『…、』
「そうそう、承太郎ってヤツ、いきなり走り出したけどさ、なんか策でもあんの?イギー連れて飛んでっちゃったけど。」
『…、』
「ま、俺の知ったこっちゃないけど。俺には春乃妹ちゃんがいればいいし。」

トロイは春乃妹の髪を手に取ると、キスを落とした。

『触らないで。』

春乃妹はトロイの手を払い落すと、また承太郎が去った方を見つめていた。車の方ではジョセフとポルナレフが切断されたタイヤをスペアタイヤと交換していた。アヴドゥルはまだ動くのが辛いのか、再び横になっているようだった。この時、誰も気付いていなかった。春乃妹の首元に付いた小さな、蛇が這ったような傷に…。

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