「愚者」のイギーと「ゲブ神」のンドゥール

車に避難した一行。水は地面に染み込んで、正確な位置は分からない。

『お兄ちゃん…!』

春乃妹は花京院の頭を抱きしめて引き寄せた。ワンピースに血が滲む。

「か…、花京院はどうだ?ハァハァハァ、」
「まずい…、失明の危険がある。おい、春乃妹、涙はもうないのか…!」
『…ぃ…、』
「なに…?」
『…出ないの…、』
「何だと…?!」
「…出ない…?おいおい嘘はいけないよ、春乃妹ちゃん。」

トロイがゆらりと立ち上がり、春乃妹を見下ろした。

「こうすれば……出るよねッ!」

次の瞬間、トロイは春乃妹に強烈なビンタをした。あまりの勢いに春乃妹は車から転がり落ちる。

「おい、テメェ!」
「まぁまぁ、そう怒るなよ。手っ取り早く涙を流すにはこれが一番さ…。」
「春乃妹、掴まれ…!」

ポルナレフが春乃妹に手を伸ばす。春乃妹は痛みと恐怖に涙を浮かべ、がくがくと震えていた。地面からジワリジワリと車の下に水がしみ出てきた。

『ハァッ、ハッ、ハッ、ハッ、』

溢れた涙を拾う涙の壺。承太郎はトロイへ振り返ると、胸ぐらを掴んで力を込めた。ジョセフは隠者の紫を伸ばして春乃妹の体を引きあげた。

「大丈夫か、春乃妹ちゃん。」
『ハッ、ハッ、ハァッ、ゲホッ、』
「…トロイ、何もぶつことはないじゃろう。それに、危険な砂の上に落とすなど…!」
「えぇ?でも、泣いたじゃあないですか。これで涙が出た。花京院典明の傷を塞ぐことができる。」
『…、』

おどけた調子でそう言ったトロイ。承太郎は握り拳を構えた。

『止めて…、もう、大丈夫…。』
「春乃妹、ホントに大丈夫なのかよ!」
『…ゲホッ…、大丈夫…です…。トロイ…さん。』
「なぁに?」
『…ありがとうございました…。』
「…はぁ?」
『…お兄ちゃん、は…、』
「ショックで気を失っている…。」
『…涙の壺…。』

涙の壺は、拾ったばかりの涙を花京院の傷口に落とそうと壺を傾けた。

[ 99/134 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]

涙の壺



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -