女教皇

一行は、アヴドゥルが隠しておいた潜水艦に乗り込んだ。

「これで紅海を渡るのか。」
「追手から姿を隠せるかもしれないが、」
「ずいぶん金のかかる旅行だな…この旅はッ!アヴドゥル、操縦できるのか?」
「わしもできるよ、わしも!」

潜水艦が発進し、花京院は春乃妹と一緒に潜水艦の中を物色していた。

『あ…、』
「ん?あ、1、2、3、4、5、6。ちょうどカップが6つあるぞ。」
「おい!早くコーヒー入れてくれ!のみてーよぉー、」
「自分で入れろ、自分で!」

そう言うと、花京院はコーヒーを人数分のカップに注いだ。

「春乃妹の分はいつも通り、砂糖とミルクを入れておくね。」
『うん…。私、持っていく…。』
「ああ、ありがとう。」

春乃妹は人数分出された通りカップをテーブルに乗せた。一つ色がクリーム色なのは、春乃妹の分である。操縦席の方では、いよいよアフリカ大陸の海岸が見えたそうだ。

「いよいよ、エジプトだな。」
「ああ、いよいよだな。」
「エジプトか…、」
「『…、』」
「ああ、いよいよだ。」

全員でカップを置いたテーブルを囲んだ。

「おい…、花京院。なぜカップを7つ出す?6人だぞ。」
「おかしいな、うっかりしてたよ。6個のつもりだったが…、」
『私も・・6個と思ってた…。』

その時だ。ジョセフが握っていたカップが破裂し、そこから出てきた鋭利な爪が、ジョセフの義手を掻き斬った。

「なっ、なにィィッ!」
「じ…、じじいッ!」
『おじ様!』

ジョセフがその場に倒れた。破裂したカップはテーブルに着地した。それは、鋭利な爪を持つ、不気味な顔をしたスタンドだった。

「バカなッ!スタンドだッ!いつの間にか艦の中にスタンドがいるぞッ!」
「ジョースターさん!」
『おじ様…!』
「春乃妹、早くジョースターさんに治療を…ッ!」
『う、うん…!』

そこで春乃妹は気付いた。先程ポルナレフを治療したので最後、涙は無くなってしまった。

『ぁ…、わ、たし…、』
「春乃妹、早く!」
『…私…できない…。』
「…春乃妹…?」
『…お兄ちゃん、どうしよう…私…、もう涙がないの…。』
「なんだって…!?」
『…ご…ごめんなさい…、私、ごめんなさい…、』

流れた涙はたったの数滴。花京院は胸が締め付けられた。春乃妹は、今まで自分達の傷を癒してくれた。しかし、壺の中身が無くなるのは目に見えていた。それなのに、春乃妹のスタンド能力を便利扱いしていた。春乃妹は涙が無くなった時の恐怖と闘っていたのだ。どうして気付いてあげられなかったのだ…!自分は春乃妹の兄なのに!花京院は春乃妹の頭を引き寄せた。

「すまない、春乃妹。春乃妹は苦しんでいたというのに、僕は…、」
『いいの、でも…おじ様が…!涙の壺、お願い…、おじ様を…!』

涙の壺は、先程拾った涙が入っている壺に蓋をし、一生懸命振って見せた。そして、蓋を開けてジョセフの傷に涙を垂らした。

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涙の壺



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