DIOの呪縛の巻
春乃妹は花京院の鞄を抱え、承太郎の後を付いていく。承太郎は、身長差からかその長い脚でスタスタと先を行くので、春乃妹は少々小走りだ。しかし、そんな春乃妹を見捨てるようなタマではない承太郎は、数分おきに春乃妹を振り返り、追いつくのを待っている。春乃妹は承太郎に追い付こうと、振り向かれるたびにさらに早足になるのだった。
「(やれやれだぜ…。)」
承太郎は、家にいるであろう自分の母親がこの様子を見たら何と言うか、考えてしまいため息を吐いた。承太郎の家はすぐそこだ。
『(…お兄ちゃん…、大丈夫かな…。)』
春乃妹は、未だ承太郎の肩に担がれた兄、花京院を見つめて考える。そもそも、どうして目の前の人物を殺すように言われたのかすら、春乃妹は知らない。花京院も、肉の芽を植え付けられてから、ただひたすら承太郎を殺すという言葉しか口にしていないからだ。それでは、あのDIOという男はいったい何者なのか…?
『わっ!?』
「…ボーっとしてると、おいて行くぞ。」
『ぁ…、ごめんなさい…。』
どうやら、考えに浸っていたようだ。気が付けば、立ち止まっていた承太郎の広く逞しい背中にぶつっかってしまった。
「着いたぜ。上がんな。」
『…ゎぁ…、』
目の前に広がるのはただただ広く大きな日本家屋。春乃妹はその大きさに目を見張る。承太郎はすでに玄関から中に入ってしまった。春乃妹も慌ててその後を追う。
『…お邪魔、します…。』
「…ああ。」
長い廊下を進んでいくと、人の声がする。綺麗なソプラノの声に、春乃妹は少し緊張した。
「今、承太郎ったら学校であたしのこと考えてる!今…、息子と心が通じ合った感覚があったわ!」
「考えてねーよ。」
「きゃあああああ!」
『…っ!』
ホリィはまさか丈太郎が帰ってきているとは思わず悲鳴を上げ、春乃妹はその悲鳴に驚いた。
「じょ…、承太郎!が…学校はどうしたの?そ…、それに、その、その人は!ち…血が滴っているわ。ま…、まさかあなたがやったの?」
「てめーには関係のないことだ。俺はじじいを探している。……広い屋敷は探すのに苦労するぜ。茶室か?」
「え、ええ。アヴドゥルさんといると思うわ。…あら?あなたは?」
大きな承太郎の身体の向こうに見つけた、小さな人影。ホリィは目をぱちくりさせた。所々砂埃で汚れてはいるものの、真っ白なワンピースに身を包み、さらりと伸びた黒髪、黒曜石のように光る黒眼。すらりと伸びた細い手足に、ホリィは思う。
「(お人形さんみたい…。可愛い…!)」
『ぁ…、お、お邪魔します…。』
「どうも、いらっしゃい!」
『…あ、あの…、』
「もしかして、承太郎のガールフレンド?キャー!流石承太郎!こんなに可愛いガールフレンドを作るなんて…!初めまして、承太郎の母のホリィよ。」
『…か、花京院春乃妹…、です。』
「かわいいーー!!!」
『きゃっ!』
がばり、と春乃妹に抱きついたホリィ。
「私の事はホリィママとでも呼んでちょうだい!あ、聖子さんでもいいわ!」
『ぅ、あ…、はい…、えっと、』
「おい、何してやがる。さっさと来い。」
『ご、ごめんなさい…!』
「もう、承太郎!ガールフレンドにはもっと優しく「おい、」…はい?」
「今朝はあまり顔色がよくねぇーぜ。元気か?」
「……イエ〜イ!ファイン!サンキュー!」
「フン。…行くぞ。」
『し、失礼します…。』
「あ、はーい、ごゆっくりね!」
ぺこり、とホリィに頭を下げ、春乃妹は承太郎の後を追った。
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