おれのこと

前川雄大は迷っていた。

『あー…その…、』
「…、」
『…ちょっと…待って…。』
「…はい…。」
『あー…、』

昼休み。高校生の雄大は中等部の階段にいた。理由は簡単。呼び出しだ。今朝、登校した雄大の靴箱に一通の手紙が入っていた。所謂ラブレターというもので…。人生で初めてのラブレターをくれた相手は、なんと同じ学園の敷地内にある中等部の生徒だったのだ。同じクラスのジャイロとジョニィに冷やかされ、幼馴染のディエゴに至っては鼻で笑ってくる始末。しかし、人生初のラブレターを貰ったからには、その想いを踏みにじるようなことはしたくない。ラブレターを読んでみると、可愛らしい綺麗な文字の羅列。

【前川先輩 初めまして、私は中等部に通っているルーシー・スティールといいます。突然ですが、私は前川先輩が好きです。一度会ってくれませんか? 2-A ルーシー・スティール】

ジャイロとジョニィにこの手紙を奪われて、大声で読み上げられた時は恥ずかしくて死ぬかと思った。

「お前たち、止めないか。前川にも、ルーシーにも失礼だぞ!」
「なんだよホット・パンツ!今いいところなんだぜ?」
「ジャ、ジャイロ…そろそろやめないと、スプレーくらうぞ…!!」
「げっ、マジかよ…!」

ジャイロから手紙を奪ったのは、ホット・パンツ。雄大はそれを受け取る。ホット・パンツは雄大の意中の相手だ。しかし、ヘタレな雄大は彼女に告白するどころか、声を掛けることすらろくに出来ない。

「ルーシーは、わたしの妹のような存在だ。小さくて、護ってやりたくなるような可愛いやつだ。わたしはルーシーが幸せになれるなら、前川と付き合うのも悪くないと思う。だが…、前川の気持ちも大切だ。よく考えて、自分の気持ちに正直に返事をしてやってくれないか?」
『…も、勿論…、そのつもりだけど…、おれ…、』
「…どうした?」
『あ、いや…、とりあえず、行って来る。』
「ああ。」

そして、冒頭に戻る。先程から、あー…や、うー…、などでまともな言葉が出てこない雄大。ルーシーはそれを急かすことなく、大人しく静かに雄大を見つめて待っていた。異性の視線に弱い雄大は、ルーシーからくる子犬のような視線にさらに言葉を詰まらせる。

「…あの、前川先輩。」
『うわ!はい!な、なんですか…?』
「無理に、返事をしなくていいですよ?他に好きな方がいるのなら、わたしの事は気にしないでください。前川先輩を諦めますから…。」
『…………その……ご、ごめん…。おれ…、好きな人が…いるんだ…。』
「…そう…ですか…。分かりました。前川先輩の事は諦めます。その人のこと、大事に想ってあげてくださいね!それじゃあ、失礼します。」

ルーシーは最後まで笑顔だった。雄大は重い足取りで教室に戻る。教室ではジャイロとジョニィ、ホット・パンツとディエゴが楽しそうに談笑している。雄大が戻ってきたことに一番に気が付いたのはホット・パンツだ。雄大に駆け寄る。

「…なんと返事したんだ?」
『…あー…その…、』
「…?」
『…ほ、他に好きな人がいるからって…断った…。』
「…そう、か…。」
『あの、さ…、ホット・パンツ…。』
「…なんだ?」
『…おれ…、好きな人がいるんだ…。』
「…ああ、それがどうした。今自分で言っただろう?」
『…違うんだ。えっと…なんていうかなァ…あー…、』
「?」
『だから…その…、』





おれのこと
 好きになってくれませんか?なんて…

[ 15/16 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -