ふとした瞬間

結の家では週に四回、家庭教師を雇っている。ジョナサン・ジョースターという留学生で、得意科目は考古学や地理、世界史。しかし、結に教えている科目は英語だ。日本に留学して十年近く立っている彼は、すでに日本語もぺらぺら。結は将来海外留学を目標にしているため、ジョナサンに英語を教わっているのだ。今日も結は学校から急いで帰宅すると、身なりを整えてジョナサンが来るのを待っていた。時間が近付くにつれてそわそわする結。ジョナサンは俗にいう爽やか系のイケメンというやつで、ただでさえ異性に耐性のない結は、意識せずともそわそわとしていしまう。そこで鳴ったインターフォン。結は駆け足で玄関に向かい、鍵を開けた。

「やあ、こんにちわ!」
『先生、こんにちわ!』

にっこりと笑った二人。結はジョナサンを家に上げる。結の両親は共働きで、帰ってくるのは日が沈むころ。用心のため、結はいつも鍵を閉めている。ジョナサンが靴を脱いで上がった所で、結は玄関の鍵を閉めた。

「お邪魔します、」
『はい!』

結の部屋に入ると、ジョナサンは鞄を下ろして教材プリントを取り出した。結は前回宿題に出されていたプリントをジョナサンに手渡す。ジョナサンがそれを採点している間に、結は受け取ったプリントを解いてくのだ。

『…先生、ここ…よく分からないんですけど…、』

学習机で勉強する結に、ジョナサンは立ちあがって後ろからプリントを覗きこんだ。

「…ん?なになに…、…あぁ、これか!これはね…、」
『…っ!』

近くなった距離に、結は縮こまる。耳にジョナサンの声と吐息が触れ、かぁ、と顔が赤くなる。

「過去形になるから、この動詞が…ん?どうかした?」
『ぇ、あ、いや!何でも!何でもないです!』

赤くなった結に、ジョナサンは自分と結の距離に気付く。自分の顔のすぐ傍に、結の横顔がある。ジョナサンは慌てて結から離れた。

「ご、ごめん結ちゃん!」
『あ、の、大丈夫ですから…!』
「教えることに夢中になってて…、ごめんね?」
『…はい、』

ジョナサンは結につられて赤くなった。

『…先生、顔赤いですよ?』
「えッ!…あ、いや、その…、結ちゃんだって顔真っ赤だよ…?」
『ぁ、…あの、これは…その…、』

お互い真っ赤になった顔を逸らす。

「…ぷっ、」
『…?』
「あ、いや…ごめん笑っちゃって…。なんか、おもしろかったから…、くく…っ!」
『先生…!笑う要素なんてどこにもなかったのに…、変なの…ふふっ…!』
「ハハッ!うん、そうだね!でも、こういうのも悪くないな、って思って!」
『?』
「あ、ごめんね、こっちの話!」

ジョナサンはポンポンと結の頭を撫でた。結は真っ赤な顔のままジョナサンを見つめる。立っているジョナサンに対して、椅子に座っている結。したがって、結は少し上目にジョナサンを見るわけで、それに気付いたジョナサンは再び赤くなり、結から顔を逸らした。

「あー…その、えっと…、お手洗い、借りてもいいかな!」
『あ、は、はい!』

ジョナサンは結の部屋を出る。静かにドアに背を預けて大きく深呼吸をした。右手で口元を覆う。結はジョナサンが部屋を出たのを確認し、真っ赤になった顔に両手を添えた。煩く鳴った心臓。

「『(…びっくり…した…、)』」





ふとした瞬間
 ぼくは君を好きになった

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