この手に抱くは

ディオ・ブランドーは自身が所属するラグビー部のキャプテンである。毎日毎日休むことなく部活動に励み、持ち前の運動神経と生まれながらのカリスマ性から、キャプテンの座を勝ち取った。今日も今日とて厳しい練習をしている。そんなディオの視界に入ったのは、ディオの密かな想い人である結。結はグラウンドの隅にあるベンチに座り、本を読んでいた。ディオは思わずその光景に見とれていた。その時、さわさわと優しい風が吹き、結の絹のように綺麗な黒髪がなびいた。結はそれを静かに耳にかけなおす。その様子を見つめていたディオは静かに口を開いた。

「休憩…、」
「キャプテン?」
「…休憩だ。十分休憩!」
「「「はいッ!」」」

後輩部員達は先輩部員のドリンクとタオルを持って、急いで渡しに行く。キャプテンであるディオにも、一番にドリンクとタオルが手渡された。ディオはそれを受けると、静かに結の元へ近付く。さくっ、さくっ、と芝生と砂利を踏む音に、結は本から顔を上げた。

「や、やあ、」
『こんにちは!』
「…読書の邪魔をしてすまない。…隣、いいかな?」
『どうぞ?』

終始笑顔で応える結に、ディオの気持ちは跳ね上がる。今、彼女の視界には自分がいる。自分を見ている。ディオはタオルで汗を拭い、結の隣に静かに座った。結をちらりと視界に捉え、ドリンクを口に含んだ。

「…毎日、ここで本を読んでるよな…?」
『はい、気に入ってるんです。』
「…そうか。」
『ラグビー部、練習頑張ってますね!』
「ああ。試合が近いんだ。」
『そうなんですか?頑張ってくださいね!』
「ありがとう!君に応援されたら、勝てる気しかしないなあ…?」

ディオはフッ、と笑う。結もくすくすと笑い、ディオの腕を軽く小突いた。

『もう、お世辞が上手ですね、ディオ先輩!』
「!はは、お世辞じゃあないさ。事実だ。…それより、おれの名前…、」
『?知ってますよ?だってうちの学校のラグビー部、ディオ先輩が入学してから試合は連勝…!実力も上がってきてるし、学校設立以降一番の成績らしいじゃないですか!知らない人、いませんよ!』
「…なんだか照れるなあ…、」
『よっ、有名人!ふふふ…!』

ふわりと笑う結に、ディオの心臓は大きく脈打つ。照れ隠しにタオルで顔を隠し、一か八かの質問を切り出した。ディオにとって、これほど緊張することはほかにない。

「…来週の土曜日…、試合があるんだ。…よかったら、応援に来てくれないか?」
『…ぇ…?』
「いや、空いていたらでいいんだ…!ラグビーに興味がないなら断ってくれてかまわない。」

ディオの心臓はバクバクとさらに大きく脈打った。隣に座る結に、この心臓の音が聴こえるのではないか…。ディオは自分を落ち着かせようと、再びドリンクを口に含んだ。その時、結は笑顔で口を開いた。

『行きます!』
「ブッ…!」
『私、ディオ先輩を応援しに行きますね!楽しみだなぁ…!差し入れとか、持って行っても大丈夫ですか?試合の前とか…、ってあれ…?』

ディオは思ってもいなかった返答に、思わずドリンクを吹き出した。

『わっ!大丈夫ですか?!』
「ゲホッ、ぇっほ、…すまない、器官に入った…、」
『これ使ってください…!』

噎せてしまったディオに、結は自分の制服のポケットから出した可愛らしいハンカチで、彼の頬を優しく撫でた。ふわりと香る甘い香りに、ディオは思わず結を抱き締めた。細い体を優しく抱きしめ、破裂しそうな自分の恋心を打ち明ける。

『!ぁ、あの…、』
「…ずっと、君に見とれていた…。」
『…へ…っ?』
「好きだ。君が…好きなんだ…。」
『…、』

そこでディオは我に返った。慌てて結から手を離してベンチから立ち上がる。

「…す、すまない…、つい…、」
『…あの…、』
「……、」

結は持っていた本に栞を挟み、静かに口を開く。

『…私、毎日毎日どうしてここで本を読んでると思いますか?』
「…え…?」
『ここ、気に入ってるって言った理由、ディオ先輩なんです。』
「…!」
『私、初めてディオ先輩がラグビーしてるのを見たとき、ほんとに綺麗だなって思って…。それからですよ?毎日こうして本を読むフリをして、ディオ先輩のこと見てたんです…。あ、なんかストーカーみたいですね…、ごめんなさい!』

結は赤くなった顔で頭を下げた。ディオは、なんだかおかしくなって、声を出して笑った。

『な、なんで笑うんですか?!』
「いや、君が可愛くてな…くくっ…ははっ!」
『!わ、私、君って名前じゃありません!』
「すまない、そう怒らないでくれ可愛い君…、」
『も、もう…!有村結です!』

立ち上がった結。ディオはそんな結の腰に手を回して引き寄せると、優しく囁いた。

「…結、好きだ…。」




この手に抱くは
 愛しい君

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