▼ 序幕
夕張、深夜、墓地。
シンと静まり返った中に、4人の軍人がひっそりと佇んでいた。
「月島軍曹、野木山、あの墓から目を離すな。昨日の炭鉱事故で土葬されたばかりの墓だ」
「「はい」」
この墓地には事故死した炭鉱夫の遺体が多く埋葬されている。
その中に妙な入れ墨の炭鉱夫の遺体も含まれているという話を夕張で働く医者から聞き出し、月島がその墓を掘り起こしてみたが既にもぬけの殻だった。
さらには、どうもこの墓地では度々盗掘が起こっているとのことで、その盗掘犯が入れ墨の入った遺体を掘り起こして持っていったに違いないと踏んだ鶴見は月島、二階堂、野木山を引き連れ張り込んでいたのだった。
「エサに食いつきますかね」
「炭鉱で事故があればあっという間に夕張中へ広まるだろう。きっと盗掘犯にも…」
と、話している最中の鶴見の耳元へ、自分の首から下げていた耳を持っていき何やら話し出す二階堂。
怪我をしてからどうも言動が少しおかしい二階堂を内心心配する野木山だったが、今はそちらは本題ではない。
ふと、人の気配を感じ墓地へ向き直した。
「鶴見中尉殿…!」
月島も気付いたようで鶴見に声を掛ける。
先程言っていた墓の近くにシャベルを持った人影が薄っすらと見えた。
しばらく様子を見るつもりでいたが、二階堂がパキッと足元の枝を踏み鳴らしてしまい、それに気付いたらしい人影は走り逃げて行く。
その時、その人影がポケットから何かを落としたのを野木山は見逃さなかった。
「追え」
「殺すなよ二階堂ッ」
鶴見の号令によって走り出す月島と二階堂。
野木山は人影の落とした物を拾い上げ、鶴見に手渡した。
「落とし物だ」
「革の手袋…ですね」
それは人の皮を剥いで作られたかのように見えるほどだった。
いや、盗掘犯が落としていったものだ。
本当に遺体から剥いだ皮で作られているのかもしれない。
むしろその方が墓を掘り起こす説得力になる。
これはまた凄い趣味の人間がいるものだなと野木山が思う横で、鶴見はその革手袋を嵌めた。
「届けてやろう」
その口角は微かに上がっている。
それを見届けた野木山は月島たちを追って走り出した。
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