格子の向こう側 | ナノ


▼ 後藤

「えーっと、名前は?」
「後藤だよ」
「後藤ちゃんね」

今日の話し相手は後藤に決めたらしい。
何の変哲も無い、しがないおっさんに何故か水波海の感覚が反応したからだった。

「後藤ちゃんは何してここに入ったんすか?」

少なくともこの監獄に収監されてる時点でそれなりの罪を犯した者だというのは分かることだが、それでも水波海の問い掛けの仕方を聞くと何だかもっと軽い質問のようにしか感じられない。

「酒に酔って、女房と子供を殺しちまったんだよ」
「ふーん」

たかがそんなことでここへ入れられるのかと急激に興味が削がれた。
勿論殺人は重い罪だが、この網走監獄にいる囚人達は凶悪犯ばかりだから何だか大した印象じゃないなと思ってしまう。
それなのに、何故この男が気になったのか水波海は不思議に感じた。

「水波海ちゃんだっけ?最近いろんな奴と話して回ってるんだってな。俺も話し好きだからたまにこうして話しかけてくれよ。ここの生活は暇だからさぁ」
「んー、なんか思ったよりあんた面白くねーから気が向いたらっすね」
「え、えぇ…」

そう言ってさっさと戻って行く水波海。
何が引っかかったんだろうかと、自分でもよく分からないままだった。

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