空気が伝える君の体温


久しぶりの休日に、合宿場の立向居の部屋でゴロゴロする2人。
1人はこの部屋の主である立向居に、彼の幼馴染でありマネージャーの名字。
彼女はこの合宿に外部と監督との連絡のやり取りをするための係として参加しているが、殆どマネージャーと同じような仕事内容だ。
そんな彼女は彼のベッドに寝っ転がったまま、熱心にサッカー雑誌を読んでいる立向居に声を掛けた。


『たちむー』


「なにー?」


『其処の雑誌とって』


最初の返事には顔を上げなかったが、彼女が指差すのを視界にとらえたのだろう。
立向居は顔を上げて彼女の指先を辿る。


「これくらい立って取りに行けばいいのに…はい」


『なん…だと…』


「え、何その反応」


彼女が指差した先にあったのは、少し遠くの雑誌。
まぁ其れもサッカー雑誌なのだが、サッカー部のマネージャーである彼女が読んでもなんら不思議ではない。
小さく溜息をついた立向居は、読むのを中断して態々立ち上がってその雑誌を取りに行く。
それを手渡せば、受け取った本人は信じられない、と言わんばかりの表情を浮かべているではないか。
折角取りに行ったのに何故こんな反応、と立向居は戸惑う。


『其処はムゲン・ザ・ハンドで取るべきじゃないの!?』


「何言ってるの!?」


名字の言葉に即行で突っ込んだ立向居。
確かにそうだ、彼の突っ込みは的確である。


『何のためにムゲン・ザ・ハンドが伸びると思ってるんだ!』


「何のためにって…(其れはボールをキャッチする為…あれ?)」


『遠くのものを取る為だろう!?』


「よくよく考えてみたら手が伸びる必要なかったと思うけど確実に其れは違うと思う」


『え、違うの?』


「サッカーの必殺技を日常生活じゃあ使わないって…」


はああ、と溜息をついて額を押さえた立向居。
名字はどうやらその事実が気に食わないらしく、えー、と不満げな声を上げている。
以前は似たようなシチュエーションでもこんなことは言わなかったのに、一体何があったのだろう。
立向居がそう尋ねれば、彼女は口を開いた。


『だって、円堂先輩ゴッドハンドで近所のスーパーの飴掴み放題やってたし』


「なにやってるの円堂さん!?」


『豪炎寺先輩は焼き芋の為にファイアトルネード使ってたし』


「最早消炭になると思うんだけど!しかも何故に焼き芋!?」


『鬼道先輩なんか川で魚取る為に皇帝ペンギン使ってたよ』


「まさかの淡水にペンギンんんんん!」


まさかの自分の尊敬すべき先輩たちの奇行に一々突っ込んでしまった立向居。
今ので彼の体力は殆ど持っていかれてしまっただろう。
ぜえはあと息を切らして四つん這いになっている立向居に眼もくれず、彼が手渡してくれたサッカー雑誌を広げる名字。
ようやく息の整った彼は、どうして彼女がそんなことを知っているのだろうと疑問に思う。


『どうしてって、其れは先輩たちがやってくれたからだよ!』


「そうだった円堂さんはともかく豪炎寺先輩と鬼道先輩はシスコンビだった。
其れと読心術止めて」


『シスコンビって失礼だよ』


「(スルースキル発揮しちゃったよ)事実だから仕方ないって。
それからそんな人たちにほいほい着いていかない!」


『ほいほいって、相手は先輩なんだからそんな言い方ないでしょーよ』


立向居の言葉に少し困ったように笑う名字。
確かに彼女の言う事は正論だったが、立向居な何だか其れが気に食わなかった。
長年一緒にいる自分の言う事よりも、歳上とは言えど自分なんかよりもずっと付き合いの短い彼らの言う事を聞くのかと。
むっすー、とむつけてしまった立向居に、名字は声を掛けるが彼は無反応。
どうやら本格的に拗ねてしまったらしい。


『たちむー、立向居ー』


「……」


『…勇気』


「っ、」


ばっ、とこっちを向いた立向居に、やっとむいてくれた、と笑う。
そんな名字に彼は少し申し訳なさそうにしながら手に持っていたサッカー雑誌を床に放置すると、ベッドの上でゴロゴロしていた彼女の隣に自分も転がる。
合宿場のベッドはそんなに大きくないため流石に2人はきつい。
男女の体格差があるから2人並んで転がれているようなものだ。
2人の間にサッカー雑誌を置いて、それを2人で眺める。
突然転がってきた立向居に名字は文句一つ言わぬまま、そのまま時間が過ぎていった。
ぺらり、ぺらりと無音の空間に雑誌を捲る音が響くだけの沈黙を、立向居が破る。


「…あんまり、先輩たちの必殺技見ないで」


『なんで?』


「な、なんでも!」


『、はいはい』


「分かってる?」


『よーするに、たちむーと一緒に居れば良いって事でしょ?』


「!」


かあ、と直ぐに赤くなった立向居の顔は、名字の言葉が的を射ていることを分かりやすく示しており、彼女は其れを嬉しそうに、愛しそうに。
彼の姿を直視はしないものの、隣に感じる体温を静かに感じていた。



空気が伝える君の体温
其れほどまでに2人距離は近い。身体も、心も


▼白狐様

おはようございますこんにちはこんばんは白狐様!
た、立向居…初めて書きました…口調が合っているかどうかさっぱりです!も、申し訳ない…orz
傾向もギャグ甘というものでしたが、果たしてこれであっているのかどうか甚だ疑問です、書いたことがないって恐ろしいね!←
今回は連載主ではなく普通の女主という事だったので、連載主の独特の雰囲気を消そう消そうと頑張りました。
そしたら何かこんな訳の分からない子になってしまいましたけど…最後とか連載主の雰囲気出てきてしまってアッー!です。
時間軸に指定は頂きませんでしたので、とりあえずFFIで雷門中に合宿している頃という事にさせていただきました。
立向居の口調など気になる点がありましたらどうぞご指摘下さい、直させていただきます^^;

50000Hit記念企画参加ありがとうございました!

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