2本の線
「明日僕が消えたら」
「君は」
「どうする?」
そういってカヲル君は笑ってみせた。
何でだろう。
いつも凛として見えるカヲル君、確かに儚いイメージは前からあったけど…今は触ったら壊れてしまうような、壊してしまってもう使いものにならないおもちゃのような、そんなふうに見える。
彼の心に触れたら、彼は私の前から突然消えてしまうのではないか。
そう考えたら頭の中が真っ白になり、言葉をだすことができなかった。
「……僕は、何を言っているんだろう」
「忘れてくれてかまわないよ」
「……死にたがりの、ただのひとりよがりみたいなものだから」
どうして笑うの。
どうして泣きそうなの。
やめて、やめてよ。そんなカヲル君見たくないよ。
じわりと涙がうかんでポタポタと床をぬらした。
彼はもう何も言わない。私に伸ばした手は、触れる寸前で止まり、彼は申しわけなさそうな顔をして手をひっこめた。
「ごめんね」
分からない、分からないよ。
カヲル君は私に何を伝えたいの?
私が伸ばした手はカヲル君には届かない、カヲル君が伸ばした手もきっと私には届かない。きっと私たちは交じり合わない、平衡に引いた2本の線のようなものなのだ。
翌日、彼は私の前から消えた。
サヨウナラさえ言ってくれないなんて、冷たい人ね。と笑えればよかったのに。
私は彼に恋をしていた、たとえそれが叶わぬ想いでも。