あ り え な い 。


もう何がありえないかって、折原君だ。彼のことを思い出せばイライラしてしまうのだが、ついさっきまで彼は私の職場から離れなかった。


帰れ、といえば帰らない、とだけ繰り返す。だから、帰らないで、といってみたら「じゃあずっと君の隣にいてあげようかな」なんて甘い言葉を囁いてきたので、ぞわっとして思わず手元にあったジョウロを投げつけた。(でもやっぱりかわされた)



「………はぁ」


幸運なことに、その時店にいたのは私1人で他の従業員は休憩をとっているところだった。やっとのことで折原君は帰ってくれた…けど、折原君と絡んでるの見られたら私が店長にこっぴどく怒られているところだった。


よかった、見つからなくて。




仕事を終えて、私は私服に着替えた。ひとつに結んでいた髪の毛をほどき、カバンをもって店をでる。




「あ、やっと終わったんだ」


「!!」


「待ってたよ。ここじゃあなんだから、レストランにでも入らない?」


そう誘導する折原君を一睨み。――誰があんたなんかとレストランに入るか。



ぷいっとそっぽを向けば、彼はあららと眉根をよせる。



「………君の好きなチョコレートパフェ…おごってあげようと思ってたのに、そっか」


「………」


「ついでにミルフィーユもつけてあげようと思ったんだけどなあ」


「………………」


「そうだよね、ごめんね、無理矢理話しつくっちゃって。じゃあね、」


そういって、悲しそうな顔をしていってしまいそうになる彼の手を思わず引っ張ってしまった。……。って、何してんだ私ぃぃぃいいいぃいい!これじゃあ、彼の思うつぼじゃないか。


――くるりと振り返った彼の顔は、悪意で満ちていた。ニヤリ、としてやったりな顔をして笑ってみせると、



「食べたいんだ…?」


と言った。食べ物につられてしまうなんて…!
恥ずかしすぎて顔を真っ赤に染めていれば、彼が「正直だね」と笑いながら私の手をひいてレストランへと引っ張っていった。




………ああ、できれば時間を巻き戻したい。っていうか、折原君はなんで私の好きな食べ物知ってるんだろう。なんか…ちょっと怖い。

餌付け






(お、折原君、)


(ん?何?)


(やっぱり、私、自分の食べるものは自分で払うよ)


(……え?)


(だ、だから、金輪際今日みたいな…迷惑なことするの、やめてよ?)


(うん、ごめんそれは約束できないや。ってことで、俺がお金払うよ)


(え、ええええええ!)





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