絶対にありえない
目をぱちくり瞬かせて、一瞬何が起こったかわからなくなりフリーズしてしまった。氷のようにかたまってしまった私を「大丈夫?」といって折原君が腕を掴んできた瞬間、止まっていた頭が正常に稼動したらしく、気がついた時には私は持っていたジョウロを地面に落として水をばらまいてしまっていたのだった。
「っ!」
「……君、ドンくさいね」
クスクス笑いながら折原君はジョウロを拾い、渡してくれた。といっても、ジョウロの中身はすでに地面に吸収され空っぽなんだけど。
「……っ!からかってるの?」
「いや?からかってなんかないよ」
何の悪びれたそぶりもなく折原君は言ってみせた。…この人のことだ、絶対何か裏があるに違いない。初対面の女の子なら、こんなイケメンに告白されてラッキー!……だなんて考えれるかもしれないけれど。
残念なことに、私は高校時代のよしみなのである。嫌でも彼の悪事は見てきた、それはそれは言葉ではあらわせないくらい悲惨なものばかりだけど。
「(絶対、絶対ありえない)」
それに、高校を卒業してすでに2年の月日が経っているのだ。今更好きだって言われても。……彼がいない空白な2年間は、大きい。
彼も、私も、2年が経てば多少はかわってるものだし、もし仮に…仮に折原君が本当に私を高校時代から好きだったとしても、2年も会わなかったらさすがに飽いちゃうに決まってる。
「……何?疑ってるの?」
そういって彼が肩をあげる。こんな状況で疑わないほうがおかしい。
「……。よく分かんないけど、折原君、今何か悪いこと企んでるよね?」
この際ズバズバいいたいことを言ってやる!…と思ったのだが、目の前の折原君は何故か面食らったように目を大きく開かせ、少し口をもごもごしてみせた。
生唾をごくりと飲み込む。え…。私、何か…悪いこと言っちゃったかな?
「お…りはら、君……?」
「………。君って…人を見抜く力があるんだ?何だかいつもぼーっとしてるから、まともに頭使ってないように見えたよ」
さらっとひどいことを言われたような気がする。むかついたので、折原君の足を踏んづけてやろうとしたらさらりとかわされてデコピンをくらった。
「〜〜〜…っ!」
「あっはっは!最高に愉快だよ、その顔!あっはっは!」
もう1度何か仕掛けてやろうかとも思ったが、どうせカウンター技をくらうんだからやめておこうと思い踏みとどまった。私ってなんて偉いんだろう。
(やっぱり花子ちゃん)
(静ちゃんが見込んだ通りだよ)
(……手に入れたい、ねぇ)