犬猿の仲
「――……。」
さて、どうしたものか。目の前に繰り広げられている光景に思わず苦笑した。
「オタマロォオオォ!何で、どうして私の指示に従わないの?!」
「マロマロ」
「ぎゃー!噛み付いてきた!仮にも主人なのに!反抗期かあああぁあああ!」
ハナコが、オタマロと睨みあっている。睨みあいならまだ可愛いものだ。ポケモン相手だっていうのに、容赦なくオタマロにつかみかかるハナコが正直、ちょっと怖い。(オタマロは仮にも主人なのにハイドロポンプをハナコの顔面にくりだしていた)
「むっきー!もう、何でよー…」
そういって、ハナコががくっと肩を落とす。後ろからそっと近づくと、気配に気づいてハナコが振り返った。
「あ…N」
「ハナコ…何してるの?」
「あー…うん。さっき、トレーナーとバトルしたんだけどオタマロが指示通りに動かなくって…」
「マロォ」
オタマロが僕のほうを見てきた。どや、みたいな顔をしている。あ、ちょっと可愛い。
「(どうしてハナコの指示を聞かないの?)」
そう問いかければ、
「(かまってほしいから)」
とオタマロは答えた。……どうやらオタマロは、他のポケモンにハナコをとられたくないらしくわざと悪い子のふりをしているらしい。
「君のオタマロ、君にかまってほしいみたいだよ」
「え?」
「……決して悪い子じゃないみたいだから許してあげてくれないかな」
そういえばハナコがオタマロのほうを見て、そして僕のほうを見て「わかった、ありがとうN!」と笑った。
「マロマロ」
「オタマロ……そっか、この可愛いやつめ!」
ツンツン、とほっぺをつついているハナコを見て何だか和んだ。――が、その後すぐにハナコの指にオタマロがかじりついた。
それから2人が大喧嘩したのは言うまでもない。
喧嘩しても、また仲直り――そんな2人がちょっとほほえましくて、それでいてなんだか羨ましいような、そんな複雑な感情に僕はなった。