――あぁ、おいらどうなるんだろう。

任務中に失態を犯したなんて…あぁ情けねぇなぁ、うん…。

「(光りがあたたけぇ。)」

…おいら、こんな暖かいもの…知らなかった。




なくなった記憶




「〜〜♪」

長かった学校も1日を終え、ルンルンで自転車をこぎながら帰宅途中。おぉおおおぉぉ、大好きな下り坂道きたああぁぁああぁぁァァァアア!

「いくぞおおおおお!」

そう叫びながら、ハンドルを握らず両手離しで一気に駆け下りる。(よい子はまねしないでね!)…ぎゃー!爽快爽快、長い学校のストレスの鬱憤場所がこんなところで使われるとはね!

「(きゃー!きもちー!)」

と、その瞬間だった――。

「(っ、人ぉぉおおぉ?!)」

キィィイイイ!

ブレーキをかけたが間に合わなかった。

ムギュゥッ!

「――ぎゃぁっ!」

「……うわああああ、やばい…人、轢いちゃった…。」

2人倒れていたうちの1人の背中を車輪で思い切り轢いてしまった。わ…悪いのは私だけどさ、不可抗力っていうかさ!
ってかどうしよどうしよ逃げようかな。…でもこのまま轢き逃げしたらなんか…うん、ダメだよね。

私は心臓をドキドキさせながら自転車を道路の端に止め、轢いてしまったほうの人の体をゆさぶる。


「あ、あのー。大丈夫ですか…?」

「…ってて、」

っほ。どうやら生きているらしい。よかったよかった!――…っていうか、何この人たち。格好はおかしいし、まず道路で死体ごっこ(?)をしていることがおかしいし。

…怪しい人轢いちゃったなあ。


「ったく、いてぇじゃねぇーか!うん!何しやがんだ」

「うわっ!す、すみません!」

むくりと起き上がるその人物は、意外にもイケメン。金髪のロングヘアーに青い瞳。男は私のほうを見て、きっと睨みつける。

「おいらの背中どうしてくれんだ」

「…いや、まぁ死体ごっこしているあなた方にも問題があるというか…」

何か言ったか?

「いえ滅相もございません。」

「ったく…。おーい、旦那!旦那ァ!」

そういって、金髪の男はもう片方の相方と思われる赤い髪の男の肩をゆさゆさ揺さぶる。


「……んっ」

「おー、起きたか旦那ぁ!」

「……うるせぇ。もう少し小さな声で喋ろ…」

不機嫌そうにむくりと起き上がると、赤い髪の男は眠そうな顔であちらこちらを見てから最後に私に視線を合わせる。


「…お前、誰だ。」

「…いや、そりゃこっちの台詞ですが。」

「旦那ぁ、聞いてくれよ!さっきこいつがこれで俺を思い切り轢いたんだぜ!」

「ざまぁねぇな。」

「…………。」

何この人たち。まあ、轢いた人も生きてることだし私帰っていいんだよね?うん、謝ったし?


「まあ…じゃあ、私はこれd「って、ちょっと待て。」…待ちたくないでーす、」

そういうと、赤い髪の男がぎろっと睨んできたので思わず口ごもる。ぎゃー!怖い怖い!なにこの人ら、ヤクザなんじゃないの?!
さっきまで喧嘩してたとか!めちゃくちゃありえそう。


「…お前、なんて名前だ。」

「………田中花子だけど…。」

「花子、か。いい名前だな」

涼しげな顔をして恥ずかしい言葉をすらすらいうこの赤い髪の男。不覚にも顔が赤く染まってしまった。

「っふ…顔が赤いぜ?」

「いや、あんたのせいですが。」

「…それより、花子」

さっそく呼び捨てかよ。もうつっこむ気すらなくなってきた。

「……何?」

「ここは、どこだ。」

「……はい?」

え?ここはどこって?

「……●●町だよ」

「………っは?」

「いや、だから●●町だって。」

「「………。」」

2人してきょとんとした顔で見つめ合ってる。え?私変なこといってないよね?



「……おい、デイダラ。」

「…旦那、」

「あぁ…。どうやら異世界へきたらしいな。」

「……記憶はうっすらとあるんだけど、思い出せないんだよなぁ…うん。」

一体どういうことだ?
――旦那とこの世界へ…なんで来たんだ、うん?
俺の名前はデイダラで、旦那はサソリで…。えーっと…おいらたち、何してたんだ?

「あー!まったく思い出せねー!」

「………。」

何も思い出せないのは旦那も同じようで、思いつめたように深く考えこんでいる。…っていうか、旦那かなり眉間に皺よってるって。ううーん…おいらも考えてみてはいるんだけど、全然思い出せねぇ。

名前とか、誕生日とかしか思い出せねぇんだよなあ…うん…。
おいらって一体何者なんだ?っつーか、何だこの格好。うーん?うーん…。



「……あのー、お悩み中悪いんだけど」

「「?」」

「じゃあ、私は家に帰ります。さらばあああ!」

何かよく分からないけど、とりあえず帰っていいんだよねええええ!なんて考えが甘かったんだなあ。


ガシッ。

「――女、逃げたらぶっころす」

「ひぃぃいい!」

「って、旦那旦那、くないだしてるってええ!」

一瞬で私は首元に忍者がよく使っているくない?とかいうものを突きつけられていた。え?これ本物?本物だったらやばくね、警察きたらあんたらおじゃんだよー。

…なんて考えている余裕があるわけもなく。


「……くない…?」

そういって、赤い髪の男のほうが首を捻るとあっと思い出したように目を見開いた。

「ど、どうした!旦那!」

「……俺達は忍者だ。それで、ある任務で――…」

ある、任務?

――ドクンッ。



「ぐあ!っぐ…っ」

「……!どうしたんだよ!」

記憶を掘り起こそうとした瞬間、それを遮るかのように酷い頭痛がした。――まるで、何者かが『思い出すな』と警告をするかのように。




「……っち、これ以上は…無理、か…」

断念せざるをえなかった。――まあ、いずれは思い出さなくてはいけなくなる日がくる。何故かは分からないが、そんな予感がする。




「……旦那、何か分かったのか?」

「いいや…俺達が異世界のもので、忍者だったことぐらいしか分からなかった。」

「………そっか。」

そういって、デイダラが落胆するかのように肩を落とした。…異世界、か。不幸中の幸いというかなんというか。死ななかっただけマシだと思ったほうがいいのだろうか。



「……あの、さ。異世界だとか忍者だとかとにかくよくわかんないんだけど、あんたたち…何者なの?」

「……さぁな。俺達にもわかんねぇな。」

「わかんねぇなって…っ」

「――とにかく、何者かがこの世界に俺達を飛ばしたことは事実だ。…厄介なことになった」

そういって、親指の爪をかりっとかむ赤い髪の男。…わわ、よく見ると爪に黒いマニキュア塗ってるんだ。それに指輪までしてるし。…こってるなあ。


「……まあ、お2人さん頑張って!」

まあ私の家は無理だよ!うんうん!
そう思って手をふって自転車にのって意地でも坂道を下ろうとした瞬間だった。



「「――どこへ行く気だ?」」

そういって、ニッコリ微笑む二つの影に、思わず身動きが封じられる。


「…え、えへへ」

「おいらたちの秘密を知ったからにゃぁ、ただでは返せねぇなあ。うん」

「…残念だ、諦めろ。」

え、何その哀れむ目。あんたらが諦めろやあぁぁああァァ!」

そういってあーだこーだ言い合っていると、そこに運よくうちのお母さんが徒歩で通りがかろうとしていた。救いの手!マイマザー!




「おかーさああああああーん!」

「っち、母親を呼びやがって」

「マザコンか。うん。」

うるさいな。こっちは黒髭危機一髪なみに危険なところに立ってるんだからなあああ!」

そういってもめていると、お母さんがこっちを見て足を止めた。




「あら?花子、と――…」

「(っち、めんどくさいことになりそうだな…)」

「…デイちゃんとサソリちゃんじゃない!もー、何してんの?こんな坂道のど真ん中で!」

3人とも目を見開いてきょとんとする。――写真でおさめたらどれだけのアホ面が残せたのだろうか。あぁ、残念だ。


「…っへ。えーっと、お母さん…?」

「ほらほら、仲がいいのは分かったから道の端を歩きなさい!…デイちゃんとサソリちゃんは仮装大会かしら?楽しそうでいいわね、ふふ」

そういって、お母さんは笑いながら坂をあがっていった。えーっと?え?



「……あの、この状況って何?」

「…こっちが聞きてぇよ。一体どうなってやがる…」

赤い髪の男がまた眉間に皺をよせた。うわー、この人なんかストレスすぐにためちゃいそうなタイプだあ。

じゃなくって!私は慌ててお母さんの後を追うと、呼び止めた。


「えちょ、お母さん!」

「あら?どうしたの、花子」

「どうしたの、じゃなくて…!あの2人って、誰…!」

そういうと、お母さんはきょとんとした顔で私を見てきた。


「……?誰って、あなたの双子の兄じゃないの。どうしたのー、頭でも打った?」

そういってふふふと笑うお母さん。…っは?
双子の兄?そんなもの私にはいませんけど?


「ででででも、おかあs「――花子、帰るぞ!うん!」

「はいはい、気をつけるのよー。あ、デイちゃんお風呂わかしといてくれる?」

「お、おう、任しとけ!」

慌てたデイダラが私を引き止めて、母親からべりっと引き剥がした。こんにゃろ…!


「ふーふんぐー!」

「(こら、いい子にしろよ!手間かけさせんな、うん!)」

「ふーふーふー!」

口元を手で塞がれ、なんとも滑稽な姿になっていた。くそ…この金髪野郎後でボコボコにしてやる…!






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