「――おいおい、いい加減諦めろよ、うん。」

そういって、デイダラがにやりと笑う。

異世界へ



「っち…っ!」

舌打ちをしてから逃げようとする相手を、ヒルコの中に潜んでいるサソリが許すはずなどなかった。…あぁ、哀れなやつだ。まあ、ここでお前が嘆き苦しみもがいて俺達にどれだけ懺悔しようが助ける余地などないのだがな。


「……さぁ、一緒にきてもらうぜ。俺は面倒なことが嫌いなんだよ…」

「おぉ、旦那やる気じゃねぇか。」

「…とっとと終わらせたいだけだ。」

めんどくさそうなサソリに対し、少し興奮気味のデイダラは「まあ…少しぐらい相手してやってもいいよな、うん。」と右の手の平を粘土が入っている袋につっこむ。
…少しぐらい相手してやっても罰はあたらねぇだろ。まあ、死んだら死んだでその時だし?連れてかえりゃあ問題ねぇからな、うん。


――と、少しの油断をしていた時だった。


「……くっくっく」

追いつめられている男が喉をならした。その言動に2人は眉間に皺を寄せる。


「……?何がおかしいっていうんだよ?」

「お前ら…気づいてねぇんだな。あんたらの後ろにあるものによぉォオ!」

男がそういってひゃーはっはという笑い声が聞こえた瞬間、体が後ろへと思い切り引っ張られた。

「っ、なんだこりゃ…!空間に亀裂が…!サソリの旦那ァ、おいら吸い込まれる!」

「っち、まったくめんどうなやつだ――!」

そういって、ヒルコについている尻尾のようなものをデイダラに巻きつけ、なんとか耐えていたサソリだったのだが――。



「……残念だな、赤砂のサソリ。」

「――…っ!」

男がヒルコに思い切り蹴りをくらわせたことにより、サソリはヒルコごと亀裂がはいったブラックホールのようなものにデイダラごと吸い込まれてしまったのだ。


風を切る音。

どんどん下へ下へと落ちていく。



「うわああぁぁぁあぁぁあ!だんな、だんなああぁぁぁあああぁ!」

「っち、どうなってやがる…!」

これからどうなるか全く検討もつかねぇ。…この下にあるのは、天国か地獄か。

そんなことを思っているうちに、足元がだんだん光り輝いていく。

「(…俺も、終わりなのか。)」

人間…死ぬときは思い出が走馬灯のように蘇るというのだが、それは本当らしい。…といっても、俺の場合は傀儡であって一切感情などないと思ったのだが。


「(…寂しかったこと、辛かったこと。俺には…そんな記憶しか残っていないのか。)」


母と父を失ってチヨばあにすがっていた時期が、俺にはあった。あの時の俺は…ぬくもりが、大切な居場所がほしかった。――愛、というものがほしかっただけだった。



「(そんなものにすがりついて…俺は、)」

ただ一つ後悔するとしたら――。

…誰かを愛して、誰かに愛されることがなかった、ということぐらいだろうか。







「(あぁ…光りがどんどん明るくなっていく。)」


「旦那、旦那あああぁぁぁあァァ!なんでそんな普通にしてられんだよぉおおぉ!」


デイダラの叫び声とともに、俺の意識はプツリと途切れた。







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