月と赤い林檎
毎晩毎晩夢にうなされて起きる、ということが続いた。今日もまた一緒で、誰かに背後を狙われて背中を刀で一刺しされる、というものだった。
夢にも関わらず感触が生々しくて、気持ち悪くて。おきてみれば全身汗びっしょりで、少し涼もうと廊下を歩くと月が見えた。
月の光はまるで導かれるかのように幸村を照らし出している。
幸村の横顔が綺麗で言葉がでずにいると、私に気付いた幸村が「花子殿。眠れないでござるか?」と笑いながら聞いてきた。
「あ…うん、ちょっと夢見が悪くて」
「某も同じでござる。恥ずかしながら、お館様が消える夢をよく見るのだ」
「………それは、私も?」
そう聞くと、困ったように幸村は笑っていた。――否定しないということは肯定という意味にとっていいのだろうか。それとも、夢にすらでてきていない、と。どちらにしろ少し物悲しく感じる。
「花子殿は一体どのような夢を見るでござるか」
「誰かに、殺されるの」
「……ころ、される…?」
「今日は刀で刺されて、昨日は海に突き落とされた。…こんな夢ばっか見るのって、情緒不安定なのかな?」
皮肉に笑って見せたら、幸村は少し悩んだように下を向き、それから何かを思いついたように立ち上がったと思ったら私の腕をつかんで自分の胸に引き寄せた。
「ちょ…!な、にして――」
「某にはこれしきのことしかできぬ。…少しは、気持ちが楽にならぬか?」
ら…楽になるっていうか、恥ずかしいから!なんて言えず、顔を真っ赤にしていると、自分のした行為に気付いたのか幸村の顔もカァァとりんごのように赤くなっていく。
「あ…そ、某…その、花子殿を困らせて…その、面目がたたぬゥウゥウウゥウウウウ!」
「あ…!幸む――…」
幸村を呼び止めようとしたが、彼は気がついたらもう姿すら見えなくなっていた。逃げ足の速さはぴかいちというかなんというか…本当に異性が苦手なんだなぁ。
そんなこと幸村のことを考えたら少し笑えてきた。――彼なりに、私を励ましてくれようとしたのだ。
「(なんだか頑張れるような気がする)」
私は月を見上げると、そっと微笑んだ。
「(旦那…何でそこで逃げるんだよ!馬鹿!)」
佐助は見ていた。