「静ちゃあああああん!」
そういって手をふってみると、静ちゃんは眉間に更に皺をよせてキッとこっちを睨んでいる。ええええ、何で、何で怒ってんのおおおおお!
「……臨也、そいつから離れろ」
「何で?」
「お前みたいなノミ蟲ウジ蟲野郎が近くにいたらコイツに悪影響を及ぼすだろーが」
「…相変わらずむかつくこと言うなぁ。尚更離れられないね」
バチバチと目の前で火花が散ったのと同時に、先に動いたのは静ちゃんだった。静ちゃんは標識を思い切りふりあげると、こちらへ振り下ろす。
「あ、これ俺たえらんないなあ」
そういって臨也が私を盾にした。って、おま、嘘だろ。女の子盾にするとか嘘だろ、てか標識が!標識が、落ちてくるううううう!
きゅっと目をつむったのだが、いつまでたっても標識は私のもとへは落ちてはこなかった。…そっと目をあけてみると、わずか5cmほどずれて標識が地面へ思い切りめりこんでいる。
……た、助かった…。
へにょへにょという効果音があうぐらい、私は腰がぬけて地面に座り込んだ。ちょ、足、ガクガクしてる!
これくらってたら大怪我どころじゃないんだけど!
後ろで私を盾にしている臨也を睨みつけようと後ろを振り返れば、彼はニヤリと笑って「花子は最終兵器だね」とかわけのわからないことを呟いた。
「ちょ、ふざけんなあああ!女の子盾にするやつがどこにいる!」
「ここにいるよ」
「揚げ足とるな!」
「………臨也ぁ。てめぇ、隠れてないで出てきたらどーだ。コイツに当たったらどうすんだ、あぁ?」
「…やだなあ、静ちゃん。なんだかんだで花子が大切なんだ?」
「当たって死んだら困るだろ」
そういうと、静ちゃんは地面にめり込んでいる標識を再度もちあげた。…標識は原型がなくなるぐらい、へこんでぐちゃぐちゃになってしまっている。
「さぁ、歯ぁ食いしばって覚悟決めろやぁ」
「やだなぁ、本当野蛮人は困るよ。花子、じゃあ行こうか」
「え、ちょ…!」
静ちゃんは後ろに隠れている臨也にむかって走りながら標識を振り下ろす。それをひょいっと臨也はよけると、「こういうのは性分にあわないんだけど」なんていいながら私を両手で抱えるように持ち上げた。
「ぎゃああああ!」
「うるさいよ、お姫様抱っこごときで何叫んでんの」
「静ちゃんごめんなさいいいいい!ああああ、静ちゃんにお姫様抱っこされるはずだったのにぃいいいい!」
「……随分とご不満のようだ」
臨也は少しいらだったように舌打ちをしたが、後ろから追いかけてくる静ちゃんから逃げるべく走る走る走る。
せっかく静ちゃんに会えたのに、何でこうなるの。
END.